日本海に面し、古くから漁業が盛んな京都府京丹後市丹後町。その北東に位置する中浜エリアで、府内で唯一黒アワビの養殖事業をしている女性たちがいます。
中浜漁港の漁師小屋で黒アワビの養殖を営むのは、京都府漁業組合の婦人部に所属する古木さんと組合の職員として働く廣瀬さん。海が荒れ、漁獲量が減る冬の時期に、女性でもできる仕事があると引き合わせてもらったのが黒アワビの養殖でした。
今回は、そんなふたりの黒アワビ養殖のノウハウを、副業として継いでくれるひとを募集します。
陸上で手軽にできる黒アワビ養殖
2008年に漁業組合婦人部の有志活動として始まった黒アワビの養殖。1日1時間程度の軽作業であることや、掃除が簡単な桶で管理できることに惹かれ、挑戦してみることに。婦人部5人のメンバーで立ち上げ、現在は古木さんと廣瀬さんの2人体制で作業を行っています。
「海中での養殖は、沖へ出るための船舶免許や体力が必要で、女性にとってはハードルが高かったんです。一方、陸上で養殖ができる黒アワビは、空いた時間に作業ができるので、わたしたちにもできそうだと思いました」
ふたりは現在、20個の樽で約1000匹の黒アワビを育てています。
隣接する宮津市にある京都府栽培漁業センターから7センチ前後の稚貝を仕入れ、1年かけて肉厚の状態に太らせ、8センチ程の大きさに成長したものを旅館に卸したり、ふるさと納税の返礼品へ出品したりしています。
エサやりと掃除は、2日に1回。痩せやすい夏には天然のワカメやコンブを与えるなど、黒アワビの状態を見極めながら丁寧に育てています。また、朝晩の水温管理をしっかり注意することで、年間を通した養殖が可能です。酸欠にならないように、ポンプで引き上げた海水を常に循環させています。
養殖でもおいしい黒アワビを
ふたりのノウハウが詰まった黒アワビは、肉厚でやわらかい食感が特徴。漁獲に制限がある天然ものに対し、年間を通して安定して出荷できる養殖ものは近隣の民宿や飲食店からも好評なのだそう。一般消費者向けの販売は、問い合わせがあった際の対応のみですが、最近では「BBQで食べたい」と、中浜地区で海水浴やキャンプをする方々が買いに来られるそうです。
立ち上げから約15年、苦労したのが販路の確保でした。得意先の旅館や飲食店が黒アワビを使わないメニューへ変更すると、注文がなくなってしまい、収入が不安定になることもあったそうです。それでも、おいしい黒アワビをみんなに食べてほしいという思いで試行錯誤を続けてきました。
「順調に成長しなくて落ち込んだり、販路の確保に苦労したりと大変なこともありましたが、手塩にかけて育てた黒アワビを『おいしい』と言って食べてもらえることが何よりのやりがいです。」
長年の努力が功を奏し、最近ではテレビ番組などに取り上げられることも喜びのひとつだと語ります。
中浜の漁業として、黒アワビ養殖を残したい
中浜エリアでは、人口減少に伴う漁業の後継者不足や、漁獲量の減少による漁業所得の低下といった課題を抱えています。今年で80歳を迎える古木さんもそのうちのひとり。減りつつある中浜の漁業のひとつとして、これまで培ってきた黒アワビの養殖の技術を残したいと考えています。
さらに、京都府栽培漁業センターからは、京都府唯一の黒アワビの養殖を続けてほしいといった声が寄せられており、「後継者を見つけ、なんとか続けていけられたら」とふたりの思いが募ります。
対応できる発注数に限りがあるためプロモーション活動などは行っておらず、売上は月10万円程度。安定した発注がない状態が続くと赤字になることもあるそうです。
「私たちはインターネットを使った発信まで手が回りませんでしたが、若い人たちのアイデアでPR活動ができれば、もっと販路は広がるんじゃないかと思います」
ひとつの販路に依存するのではなく、加工品を開発して生産から販売までを担うなど、継ぐひとの工夫次第で事業の可能性は広がるといいます。また、間借りしている漁業組合の漁師小屋のスペースや設備にも余裕があり、相談すれば将来的には養殖の規模拡大も可能です。
陸上養殖なので漁業権を取得する必要はありませんが、現在使用している漁師小屋のスペースを継続して借りるためには、漁業組合のメンバーに入ることは必須です。また、スムーズな承継や周囲からのサポートを考えると、中浜地区に住んでいただくことが必要です。黒アワビは繊細な生き物なので、すぐに様子を見に行ける距離に住むことが好ましいです。
「このあたりには空き家もたくさんありますから、リノベーションをして住むこともできますよ。最近は若い移住者の方がお店を始めたりしています」
どんな人に継いでほしいかを尋ねると、「海や生き物が好きなひと」だという古木さん。「小屋のすぐそばには綺麗な海が広がっていて、いつでも入ることができますよ」と笑顔で教えてくれました。
海のまちで暮らすことに憧れがあり、「せっかく移住するならその土地ならではの仕事に関わってみたい」「まずは副業から漁業に携わってみたい」という方からの応募を待っています。