コウノトリと共に生きるまち。信用金庫と一緒に継業支援に取り組む兵庫県豊岡市 | ニホン継業バンク
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2024.03.01

コウノトリと共に生きるまち。信用金庫と一緒に継業支援に取り組む兵庫県豊岡市

継ぐまち、最前線

〈 この特集は…〉

地域で長く愛され、まちの個性となっている飲食店や一次産業、ものづくり産業、などの小規模事業者たち。しかし、多くの地域では後継者がいないことが理由で、歴史が途絶えてしまうかもしれません。自治体に求められているのは、事業の後継者を探し、地域の価値を承継すること。継業バンクを活用して継業が生まれた自治体の担当者に、活用に至った背景や成果をうかがいます。

地域:兵庫県豊岡市

担当者:環境経済課 福井亮介さん

若者が活躍しやすいまちづくりを推進

兵庫県の北東部に位置する豊岡市。日本を代表する温泉地・城崎温泉をはじめ、「但馬の小京都」と呼ばれる城下町出石、高原レジャーで賑わう神鍋高原、環境省選定の「快水浴場百選」や「日本の渚百選」に選ばれるほど美しい海水浴場のある竹野、日本の田園風景が残る但東など多彩な表情を持ち、その姿に魅了され多くの人々がこのまちを訪れます。加えて豊岡市は、全国有数の生産量を誇るかばん産業が盛んな地域でもあります。

国内外から多くの観光客が訪れる城崎温泉

2015年の「豊岡市創業支援等事業計画」策定後は、商工団体、金融機関などと「豊岡市創業・事業者支援ネットワーク」を構成し、創業支援や事業承継支援を行ってきました。特に、若者や女性が失敗を恐れずに新たな事業に挑戦できるような環境整備を進めてきたことで、新規創業する若者や女性も増加しています。一方、廃業事業所数が新設事業所数を上回り、地域内の多くの経営資源が失われていることが課題でした。

そんな状況を打開すべく、2021年から市が主体で事業承継支援に取り組み、4件の継業を実現した豊岡市環境経済課の福井亮介さんに、これまでの取り組みや今後の展望について伺いました。

豊岡市内の事業所数の状況。新設事業所を廃業事業所が上回り、事業所数全体はマイナスだ(出典:経済センサス-基礎調査、活動調査より豊岡市が作成)

但馬信用金庫の後押しで始まった事業承継支援

増え続ける廃業を食い止めようと、市としての施策を模索していた中で、「豊岡市創業・事業者支援ネットワーク」の構成機関であり、豊岡市に本店を置く但馬信用金庫から「豊岡市継業バンク」を活用した事業承継支援について提案を受けました。

「行政が個々の事業者さんの事業承継課題に直接関与することは難しいと思っていました。また、市職員には事業承継の専門的な知識もありません。しかし日頃から事業者さんと接し、事業承継や金融の知識を持たれている信用金庫さんが一緒に取り組んでもらえるというのは心強かったです」

豊岡市環境経済課の福井亮介さん

但馬信用金庫と「ニホン継業バンク」を運営するココホレジャパン株式会社が、2021年5月に「地域振興に関する業務協定」を締結していたことも追い風となり、2021年10月に豊岡市、但馬信用金庫、ココホレジャパン株式会社で3ヵ年の三者連携協定を締結し、豊岡市継業バンクの運用がスタート。

2022年2月には、信金中央金庫が実施する地域創生推進スキーム「SCBふるさと応援団」に、但馬信用金庫の推薦を受けた豊岡市の事業計画信金中央金庫から企業版ふるさと納税として寄附を受け、事業承継支援施策がさらに本格化しました。

豊岡市継業バンクの運営スキーム

アンケートを実施。後継者不在事業者の声を聞く

2021年10月から「豊岡市継業バンク」の運用を開始し、まず取り組んだことは、事業承継アンケート調査でした。

「豊岡商工会議所、豊岡市商工会と連携して各会員に対してアンケート調査を実施し、事業承継におけるお困り事や後継者の有無についてたずねました。その後、継業バンクに関心を持ってくださった事業者さんを訪問し、お話を伺いました。

直接お話を伺ってみて、承継してほしいのか、廃業したいのか、自分自身がどうしたいか分からない事業者さんが多いということに気づきました。アンケートがきっかけとなり継業バンクで後継者を募集した事業者は結果的に1件のみでしたが、事業者さんに対して、豊岡市が事業承継支援に取り組み始めたというインプットができたのではないかと思います」

アンケートを通じて継業バンクで後継者を募集した日本料理店「葵」は、東京都内でホテルマネジメントを手掛ける企業が店舗を借り受ける形で事業を承継。屋号や従業員も承継し、2023年9月2日に再オープンしました。

城下町出石地区で、地元住民から40年以上親しまれてきた日本料理店「葵」
前オーナーの水嶋通さん(左)、事業を承継したNHホテルマネジメント株式会社 代表取締役 芳村英郎さん(右)

承継に至るまで現地での面談には福井さんも何度も同席し、承継を見守ってきました。承継後、葵の前オーナーの水嶋さんは「自分の思いをしっかり汲んでもらえて、お店を守ってもらえる人と出会えた」とお話されていたのだそう。

「初めて事業承継に関わった経験でしたが、マッチングを円滑に進めるためのお手伝いをしっかりしていきたいという思いが強くなりました。事業者さんにとって、第三者に承継してもらうことに対して不安も大きいものですが、私たちも継いでもらう方とお会いすることで、事業者さんと承継する方の双方の不安を軽減し、承継までのサポートをしていきたいです」と当時を振り返る。

但馬信用金庫との連携で承継をサポート

豊岡市商工会と但馬信用金庫が連携して承継をサポートした事例も生まれました。国内外から多くの観光客が訪れる城崎温泉の中心地から少し離れた場所にある温泉宿「足軽旅館」です。

「豊岡市商工会から連絡があり、半年以内に廃業しようとしている事業者さんから相談を受けたというので、豊岡市商工会、但馬信用金庫、ココホレジャパンと一緒にお話を伺いに行きました。お話すると、繁忙期を終えたら廃業するつもりとのことでした。

しかし観光地での廃業はどうにかして食い止めたかったので、継業バンクで後継者を募集することを提案したところ、事業承継も選択肢として考えていただけることになり、募集開始後、すぐに問合せが入りました」

応募開始から2ヶ月後には、但馬信用金庫が仲介者として応募者と交渉を進めることに。金融のプロフェッショナルの但馬信用金庫に任せることで円滑に承継が進みました。

「足軽旅館」はオーナーと従業員の高齢化により廃業を検討していた
承継した株式会社丸近 取締役(左)、前オーナー 吉田佐登美さん(右)

結果的には、豊岡市に隣接する兵庫県香美町で水産加工業を経営する企業が承継し、旅館名物である囲炉裏料理も受け継ぎつつ、カニ料理を振る舞う温泉旅館へと生まれ変わりました。

商工業だけでなく一次産業も

継業バンクを活用した事業承継支援に2年間取り組み、市内事業者への認知も少しずつ広がっているように感じているという福井さん。

「事業承継が4件成立(2024年2月時点)したという成功事例をメディアでも取り上げていただく機会も増え、事業者さんが事業承継を考えるきっかけとなればと期待しています。

事業者さんからの直接相談はまだ少ないですが、『あのお店が廃業してしまうらしい』という声が届く機会があり、廃業を未然に防ぐことができた事例もあります。もっと周知していき、廃業を考える前に、引き継ぐという選択肢があることを知ってもらいたいです」

環境経済課の窓口には、起業を促すポスターや継業バンクのチラシを掲出している

2024年1月には、事業者向けに2度目の事業承継アンケート調査を実施。それにはどんな考えがあるのでしょうか。

「2021年当時は、事業承継施策はほとんど認知されていなかったですし、コロナが収束した今、事業者さんの状況も変化していると思うので、改めてアンケートを取ることにしました。

また、2023年度から市役所の組織も大幅に変わりました。これからは、「一次・二次・三次産業」と「環境政策」を一体となって盛り上げていこうと舵を切ったところで、さらに関係部・課連携して事業承継支援に取り組みたいです」

日本の野生コウノトリの最後の生息地である豊岡市では、「コウノトリ野生復帰プロジェクト」に取り組み、2005年9月、絶滅から34年の年月を経て、コウノトリの野生復帰を果たしました。そんな豊岡市なら、継業を通じて豊岡らしい産業を残し、つないでいく取り組みが広がっていくはずです。

農地に舞い降りるコウノトリ。絶滅前、最後の生息地だった豊岡市では、コウノトリ野生復帰の取り組みを進めており、今では野外に300羽以上が市民とともに暮らしている(写真提供:豊岡市)

現在、後継者募集中の豊岡市の事業者はこちら(兵庫県豊岡市継業バンク)