50年間家族とスタッフで切り盛りしてきた温泉宿
1300年の歴史を持つ城崎温泉は、国内外から多くのひとが訪れる関西有数の温泉街です。7つの外湯めぐりが有名ですが、自分のお店や旅館に来る方に限らず、すべてのお客様を地域全体でお迎えするという「まち全体が一つの大きなお宿」の精神が根づいています。
そんな中心街から少し離れた場所に、一級水系の円山川を見下ろすことができる隠れ家のような「足軽旅館」があります。オーナーと従業員の高齢化により、承継してくださる人を急募することになりました。
オーナーの吉田佐登美さんは、豊岡市出石町の出身。結婚してからすぐに、ご主人の両親が1972年に山を切り開いて創業した足軽旅館を手伝いはじめました。しかし8年前ご主人が急逝。4人のパート従業員とともに続けてきましたが、佐登美さん自身も来年には70歳を迎えます。また、従業員も年齢が60代後半に差し掛かり、体力的に続けることが難しくなってきました。
コロナ禍の打撃は受けたものの、2022年に入ってからは客足が戻りつつあるといいます。定期的に設備のメンテナンスを行っていて状態も良いので、承継後すぐに事業を開始できそうです。
中心地から少し離れているからこそ、ゆっくり過ごしてほしい
城崎温泉駅から800メートルの距離にあり、足軽旅館までは徒歩で10分ほど。しかし、街灯の少ない小高い場所にあるため、お客様の希望に合わせて佐登美さんやスタッフが車で送迎しています。
「山を切り開いてつくったので、少し不便な場所ですが、部屋からの景色に感動してくださるお客様はとっても多いです。夜になると真っ暗ですので、星も綺麗に見ていただけますよ」
もちろん宿にも内湯があるので、観光客の喧騒から離れてゆっくりお湯に浸かることもできます。城崎温泉の泉質と同じ温泉水を、毎日タンクローリーで配達してもらっているそうです。
基本のプランは1泊2食付で、囲炉裏で炭をおこし、お客様自身に地元但馬産にこだわった食材を調理をしてもらう食事形式にしています。一般的な城崎温泉の宿では会席料理が多いですが、炭火を使った囲炉裏料理は足軽旅館だけだといい、お客様からも好評だそうです。
もちろん11月から3月までは、名物のカニ料理も提供しています。食事の仕込みは佐登美さんが担当しており、手伝い始めてから調理師免許を取得したので、継業する方も調理師免許を取得しておくと心強そうです。
2階には6畳の和室が4部屋、10畳の和室が3部屋あり、20人前後の受け入れが可能です。特に京阪神エリアから来られる方が多く、城崎名物のカニを味わうことができる冬が繁忙期です。また、お客様の9割以上がインターネット経由で予約して来られるといいます。
「1年に1件ほど、外国人のお客様もいらっしゃいます。でも、私たちは英語が不得意ですので、スマートフォンの翻訳機能を使いながら対応させていただきました」と笑って話す佐登美さん。城崎温泉には多くの外国人観光客が訪れるので、外国語対応のホームページを整備するなどすれば、新たな顧客開拓の可能性もありそうです。
設備の維持管理やお客様との関係構築が重要
関西有数の城崎温泉エリアにあり、客足も少しずつ回復しているので今後の事業拡大も十分に見込めますが、冬季の雪への対応や、館内の維持管理は欠かせません。降雪は年によって異なるそうですが、年間降雪量の平均は50センチ前後。除雪にかかる費用や光熱費なども想定しておく必要があります。
50年の間に館内の修繕は何度か行ってきましたが、今後もメンテナンスは必要です。温泉の濾過器は交換したばかりだといい、数年間は使用できるような状態です。
旅行体験の中で、多くの時間を過ごすことになるのが宿。お客様と真摯に向き合いおもてなしをすることは、やり甲斐も大きい反面大変なこともあるかもしれません。しかし「本当にお客様に恵まれて、これまで大きなトラブルはありません」と佐登美さんは話します。
気取りすぎないアットホームな宿の雰囲気や、佐登美さんやスタッフの人柄もあって、お客様との良い関係を築くことができているのかもしれません。
最後に、足軽旅館という名前の由来を伺ったところ「実は私もよく知らないんです」とのこと。
「お義父さんが豊臣秀吉が好きだったから、足軽から大名を目指すという意味を込めたとか込めなかったからとか。また、こんな山の上にありますので、お客様に足を軽くしてお越しいただきたいという意味もあると聞いたこともあります」
できるだけ早期の承継を希望されているため、これまで宿泊業を営みノウハウのある事業者様に継業していただき、城崎の地でお客様がほっと一息つけるような温泉宿をこれからも続けてほしいと思います。