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2023.12.11

「もうすぐ辞める」と突然の廃業宣言。高齢化率約50%超の北秋田市が取り組む事業承継支援の歩みとこれから

継ぐまち、最前線

〈 この特集は…〉

地域で長く愛され、まちの個性となっている飲食店や一次産業、ものづくり産業、などの小規模事業者たち。しかし、多くの地域では後継者がいないことが理由で、歴史が途絶えてしまうかもしれません。自治体に求められているのは、事業の後継者を探し、地域の価値を承継すること。継業バンクを活用して継業が生まれた自治体の担当者に、活用に至った背景や成果をうかがいます。

地域:秋田県北秋田市

担当者:産業部 商工観光課 千葉祐幸さん

事業承継支援に取り組み1年で3件の継業

東京23区の合計面積の約2倍の面積で、人口3万人弱の北秋田市。マタギ文化が継承されてきた自然豊かな地域で、令和3年7月には、空港付近にある史跡伊勢堂岱遺跡が「北海道・北東北縄文遺跡群」を構成する遺跡の一つとして、ユネスコ世界文化遺産に登録された観光名所もある地域です。

いっぽう、目下の課題は高齢化と人口減少。65歳以上の割合は45.8%と、全国平均の29%を⼤きく上回ります。そんな北秋田市では、2022年7月から事業承継支援に取り組みはじめ、「北秋田市継業バンク」の運用からわずか1年で3件の継業が生まれています。

2023年9月に後継者が正式に着任し、技術の承継が始まった染織物「秋田八丈」。左から、後継者の藤原健太郎さん、職人の奈良田登志子さん、北秋田市の千葉祐幸さん

継業に取り組みはじめたきっかけは、とある事業者からの「もうすぐ辞めようと思う」という一言。

北秋田市に限らず、高齢化が進む日本においてはどの地域でも起こりうる、突然の廃業。ただ黙って見過ごすのではなく、事業承継支援に取り組み、解決に向けて活動する北秋田市商工労働係の千葉祐幸さんに、事業承継支援にかける思いやモチベーションをお伺いしました。

生まれ育った地域で起こった、相次ぐ廃業

2019年に秋田県庁に出向し、2020年から2021年の2年間は秋田県庁の東京事務所で企業誘致に取り組んでいた千葉さん。

地域外から企業を誘致し、秋田県及び北秋田市で仕事や人材を増やし、地域経済を発展させるのが当時のミッション。しかし、業務に邁進していた頃、地元で行きつけのお店や地域住民馴染みのお店が立て続けに廃業したという情報を耳にするようになったそうです。

「よく行っていたラーメン屋さんや、学生時代にアルバイトしたことのある鰻屋さん、市内唯一のスポーツショップが廃業したというのが耳に入ってきまして。自分が生まれ育った地域は、この先どうなってしまうんだろうか…と漠然と感じていました」

北秋田市(旧鷹ノ巣町)生まれの千葉祐幸さん

すぐに北秋田市に帰ることもできず、後継者不足による廃業は気にかけながらも、日々が過ぎていきました。

「自分が取り組む企業誘致をきっかけに、事業承継に取り組むことができないか、と思っていたところで、継業バンクを運営するココホレジャパンさんにお会いしたんですよね。

一度お話を聞いてから、北秋田市に情報共有をしました。すぐに2回目の打合せを設定しましたが、その時に商工会さんも同席いただきました」

市として事業承継支援に取り組みたいと思いながらも、専門部署がなくノウハウがないので難しいーー。そんな課題を解決するために、市内の事業者を日頃から支援する商工会に声をかけ、打合せに同席してもらったと振り返ります。

それから約半年が経ち、2022年4月に北秋田市に帰任。商工労働係に着任してしばらくした頃、同じ部署の担当者から「伝統工芸の職人から、後継者がいないから辞めると話があった」と伝えられました。

奈良田さんは、かつて秋田八丈を操業する会社に勤務していたが、会社の廃業のタイミングで機材を承継。2006年に工房を開設し、ひとり職人で秋田八丈をつくってきた

草木染で丁寧に織られる「秋田八丈」は日本で唯一の伝統工芸で、奈良田さんは秋田県でも唯一の織り手職人。辞めてしまったら、ここで伝統が途絶えてしまう。危機感が千葉さんを突き動かしました。

突然の事態により、「継業バンク」事業に係る予算を確保。すぐに「継業バンク」を開設し、地域おこし協力隊制度も活用して秋田八丈の継ぎ手を募集しました。その結果、岩手県からの移住者が後継者に決まり、2023年の9月から技術の承継に取り組んでいます。

後継者不在の事業者への地道な声掛け

秋田八丈の募集と同時期に、せり農家、秋田杉桶樽の後継者も募集し、スピード感を持って事業承継支援に取り組んできた千葉さん。多くの自治体が後継者不在事業者の掘り起こしに苦戦する中、どのようにして後継者を募集したい事業者の情報を見つけてきたのでしょうか。

「私の部署は、商工業のほかにも伝統工芸も担当しているので、北秋田市の伝統工芸をまとめた冊子を眺めていたんです。そこで、『後継者がいないのではないか』『途絶えてしまったら困るな』と感じた事業者さんに直接電話をしたんです。

そこで、「誰かやる人がいれば継がせてもいいよ」と答えてくれたのが、現在公開している、せり農家さんと、秋田杉桶樽の職人さんでした」

秋田の郷土料理「きりたんぽ鍋」に欠かせない食材・せり農家のもとには、関心を持った応募者が合計4組訪れ、現地体験に参加。2名が後継者に内定している(2023年12月時点)
秋田杉を使って桶樽をつくる職人・佐藤秋男さん。技術を学びたいという後継者候補者が定期的に佐藤さんの工房を訪れ、技術を教えている

北秋田市で生まれ育ち、地域の魅力を守っていきたい、という気持ちを持っているからこその行動力。「おせっかいしてるだけです」と笑って言う千葉さんですが、自治体の事業承継支援には”おせっかい力”が必要なのかもしれません。

また、後継者不在の事業者の掘り起こしは、市商工会とも連携。商工会担当者による日々の巡回で「事業承継支援のお話をしたい」と話してもらっているといいます。こうした地道な取り組みにより、事業者さんから相談の声が集まるようになり始めているのだとか。

「市長も、事業承継支援に注力していくと体外的に発信していますし、最近はNHKなどメディアでも取り上げていただくことも増えてきました。そうした影響もあってか、地域内の事業者さんの事業承継に対する考え方が少しずつ変化しているのかもしれません」

自分が異動しても事業承継支援が続くために

確実に手応えを感じつつ、新たな取り組みの計画を進めてきた千葉さん。そのひとつが、2023年8月には、地域内外の関連7団体との「事業承継支援に関する連携協定」の締結です。

ココホレジャパン株式会社、株式会社日本政策金融公庫 大館支店、秋田たかのす農業協同組合 、北秋田市、北秋田市商工会、秋田県信用組合、秋田商工会議所 秋田県事業承継・引継ぎ支援センターによる連携協定(写真左からの順に団体名を記載)

2022年に中小企業基盤整備機構東北本部と東北経済産業局が実施した「自治体関与型中小企業事業承継支援モデルの構築・展開事業」の実証事業で、事業者の事業承継意向アンケートを実施。アンケート結果を関係者の間で共有したことで、市内の後継者課題に対する共通認識を持つことができたといいます。それぞれの強みを活かし、相互に連携・協力しながら市内事業者の事業承継支援に取り組み、地域経済の活性化を目指します。

「私たち自治体職員は、事業承継支援のノウハウは持っていないんです。市単独では支援しきれない部分が大半なので、関係団体のみなさんの力を貸していただきながら、今後も事業承継支援に取り組みたいと思います」

事業承継支援に取り組む、北秋田市商工労働係のメンバー。左上が千葉さん

最後に、千葉さんが目指す最終的なゴールをお伺いしました。

「役所はどうしても人事異動は避けられません。いずれ私が異動したときに事業承継支援が終わってしまうのではなく、他の職員との情報共有はもちろん、地域内団体との連携体制を構築するなど、持続できる体制をつくっておきたいと考えています」

事業承継支援のノウハウなど全くなかった、たったひとりの自治体職員が始めた取り組みは、着実に成果を積み重ねています。自分の残したい地域の魅力を残すためには、まず小さなことでも行動してみることが大切なのかもしれません。