菜の花のまち・横浜町、唯一の菜種油製造業

陸奥湾に面した青森県横浜町では、春になると、なだらかな丘陵地帯一面に鮮やかな黄色の菜の花の絨毯が広がります。夕暮れ時には、日本海に沈む夕日に照らされた菜の花畑が、まるで黄金色に輝くように美しく染まり、この光景を見るために、毎年多くの観光客が訪れます。
横浜町では100年以上前から菜の花の栽培が行われており、かつては町内の多くの農家が菜の花を育てていました。種まきの時期になると、子どもたちは学校を休んで手伝いに出るほど、菜の花は町民の暮らしに深く根ざしていました。また、毎年春には菜の花フェスティバルが開催されるなど、菜の花は町の重要な観光資源となっています。

サンサン商会の杉山さんは、20年以上にわたって横浜町産の菜種から菜種油を製造してきました。菜の花のまちとして有名な横浜町ですが、実は、町内で菜種の搾油を行っている事業者は、サンサン商会しかありません。「この町から菜種油を絞れる人がいなくなるのは困る」。そんな思いから、現在まで製造を続けてきました。しかし、高齢による引退を考え、次の世代へのバトンタッチを決意したのです。
昔ながらの手づくり菜種油
杉山さんは、「サンシャイン」というドライブイン施設を経営するかたわら、菜種油の製造も行ってきました。高齢を理由に、令和5年6月にドライブインの事業は、法人ごと譲渡しましたが、その際に、引き受け先の企業が菜種油の事業から撤退するという話を受け、菜種油製造の設備を手元に残し、製造を継続することにしました。

杉山さんの菜種油づくりは、昔ながらの製法を守り続けています。菜種にストレスをかけないよう、ゆっくりと低圧で搾油し、1ヶ月かけて自然沈殿による浄化を行います。


大手メーカーのような効率重視の製法とは異なり、手間暇をかけることで、香り高く、味わい深い菜種油を生み出しています。年間生産量は約1トン。原料となる菜種は100%横浜町産のものを使用しています。

生産された菜種油は主に道の駅で販売され、地元の人々や観光客から高い支持を得ています。スーパーやレストランからの引き合いもあり、若い後継者の手腕次第で、さらなる事業拡大の可能性を秘めています。

ここでしかできない。価値ある継業

事業譲渡にあたり、設備一式を譲渡します。製造施設は現在町の研修センターを借用して使用しています。継業後については、現在借用している施設は使用できませんが、新しい製造場所については、杉山氏、町も協力して検討しています。製造方法については、杉山さんが直接指導します。基本的な製造工程は、1週間程度で習得できますが、その後も必要に応じてサポートする予定です。

現在の年間売上高は約500万円、粗利益率は70%程度と小規模ながら収益性の高い事業です。「若くて体力のある人であれば、もっと製造できます」と杉山さんは言います。1人での運営が可能ですが、人手を増やすことで生産量を増やすことも可能です。
横浜町は、人口約4,000人の小さな町ですが、日本海の新鮮な魚介類や、広大な牧場で育てられた乳製品など、食の魅力にあふれています。特に、春に開催される菜の花フェスティバルは町の一大イベントで、町内外から大勢の人々が訪れ、菜の花畑でのフォトウェディングも人気です。
また、町の中心部から車で15分ほどの丘の上にある風力発電施設「横浜町風力発電所」は、白い風車が青い空と緑の草原に映える絶景スポットとして知られています。春には風車と菜の花のコントラストが訪れる人々の目を楽しませます。
都会の喧騒を離れ、自然に囲まれながら、町で唯一の菜種油製造者として、地域の資源を守り、新しい可能性を切り拓いていく。それは横浜町でしかできない、価値ある仕事です。