温泉の由来と発展
マタギ文化の残る阿仁の山中にひっそりと佇む、杣(そま)温泉旅館は、秘湯を守る会にも加盟する知る人ぞ知る秘湯です。杣温泉旅館という名前はオーナー家族の姓に由来し、代々受け継がれてきた家族経営の温泉旅館です。創業者である現オーナーの義理のお父さんが、自然に湧き出ていた温泉を利用して旅館を始めたのがきっかけで、その後、半世紀以上にわたり、多くのお客様を迎えてきました。
特に、炭鉱で栄えた時代には、炭鉱に従事する人々やその家族が心身を癒すために頻繁に訪れ、杣温泉旅館は地域の人々にとって、まさに憩いの場でもありました。しかし、創業から60年余り、経営を支えてきた二代目夫婦も年齢を重ね、次の世代にバトンを渡す時期が迫る中、多くの訪問客からは「この温泉を残してほしい」という声が寄せられています。
杣温泉の魅力。泉質、環境、鯉料理
100%源泉掛け流しの杣温泉の泉質は、神経痛に効果があるとされています。オーナーは「こんなに成分が入っている温泉は他にはない」と自信を持っており、その言葉通り、初めて入浴したお客様からも「こんなお湯は他では味わえない」という声が多く寄せられています。一度入れば、そのお湯の持つ魅力に誰もが引き込まれます。
また、携帯電話の電波の届かない静かな山奥で、歴史ある趣深い建物が佇んでいる環境はまさに「秘湯」と呼ぶにふさわしく、訪れる人々を癒します。
看板メニューは、先代から受け継がれた鯉料理。鯉料理というと、泥臭いイメージがあるかもしれませんが、杣温泉旅館の鯉料理は臭みがなく、鯉料理を目当てにしたリピーターも多いとのこと。さらに、希望があれば岩魚や鮎などの川魚や熊鍋など、自然の恵みを存分に堪能できる食事が用意されています。
先代から続く料理も杣温泉旅館の魅力ですので、ぜひレシピを承継してもらいたいと思っています。
常連客を大切に、新規客の獲得も
現在の杣温泉旅館のお客さんは、常連さんが1割、新規のお客さんが9割といいます。
「今日のお客さんは埼玉から、渓流釣りにきている常連さんで、もう何十年もきているので、親戚の人みたいです」と杣さんが話してくれました。しかし、常連さんも杣オーナー夫婦と同じく年齢を重ねたため、少しずつ足が遠のく人が増えてきたといいます。
一方で、最近はネット予約の新規のお客さんが多く、「特に宣伝はしたことがないけれど、ありがたいことに新規のお客さんは来ますね。ただ、最近は足を悪くしたり、体力も落ちてきたので、10人くらいの予約が入ったら、そこで予約の受付を止めてしまいます。昔は4,50人は泊めてたんだけどね」と杣さん。需要はあっても受け入れに限界があるのが、現状です。
秘湯の新たな担い手が必要
後継者になる人には、土地建物、源泉、周囲の山などの不動産資産を一式お譲りします。すぐに修繕が必要なところはないため、そのまま営業することが可能です。しかし、なにぶん古い建物で、老朽化も進んでいるため、いずれ修繕は必要になると思います。また、建物が広いため、掃除などの管理も大変そう。冬には雪囲いもする必要があります。しかし、その手間に見合う価値が、秘湯の経営にはありそうです。
杣温泉旅館は、その長い歴史と共に多くの人々に愛されてきましたが、今こそ未来を担う後継者を必要としています。温泉の魅力を引き継ぎ、この秘湯を残していくためには、次世代を担う人が必要です。杣温泉旅館の未来を共に築いていく地域の仲間をお待ちしています。