300年以上の歴史を持つ丹後ちりめん
京都府北部に位置し、日本海に面する京丹後市。まちを歩くとどこからともなく「ガシャンガシャン」と機織り機が生地を織る音が聞こえます。丹後地域で300年以上前から受け継がれてきた絹織物「丹後ちりめん」は、生地全面の「シボ」と呼ばれる細かい凸凹があることが特徴です。
丹後ちりめんは、約2,000億円規模の売上を誇り、920万反を生産していた最盛期と比べると、生産量は2%まで縮小していますが、2020年に誕生300年を迎えたことを機に、ブランド「TANGO OPEN」を立ち上げるなど、積極的な発信に取り組んでいます。
しかし、60代以上の事業者が8割を占める織物産業において、高齢化にともなう担い手不足は喫緊の課題です。丹後ちりめんの技術を次の100年へ受け継ぎたい一方で、技術の承継は一朝一夕でできるものではなく、産業構造上の課題も抱えています。そこで、「継ぎたいけど継げない」から、「継ぐためにはどうしたら良いか」を考えるため、技術と産業について学び、その課題と未来を考えるインターンシップを開催します。
本プログラムを実施する理由
京丹後市では、織物業を中心にものづくり産業が発達してきました。市場の縮小とともに生産量が減少していますが、現在も国内の和装用白生地において丹後地域が約7割のシェアを占めています。
織物産業では親族間で事業を引き継ぐことが一般的でしたが、後継者がいない事業者は全体の9割にのぼります。丹後ちりめんの技術や文化を未来へ承継するためには、親族以外が継ぐ「第三者承継」や技術を学ぶ「弟子」といった多様な継ぎ方に対応することが必要です。
そこで、職業体験や事業者とのコミュニケーションを通して、織物産業の魅力と直面している課題を知っていただき、産地と一緒に解決策を考えるプログラムを京丹後市とニホン継業バンクで企画しました。「自分ならどのように織物産業に関わることができるか」「自分が継業するならどんなことがハードルなのか」など、参加者のみなさまと織物産業の継ぎ方を考えていきます。
プログラムの概要
参加者には、織物事業者での職業体験だけでなく、組合や研究施設、先進事業者の見学、講師によるワークショップを通して、織物産業の歴史や背景、魅力、抱える課題などを様々な角度から捉え、それぞれの目線で産業の未来へのアクションを考えていただきます。
<受入事業者の紹介>
①織元金重
1953年の創業以来、白生地と呼ばれる織物を製造しています。白生地のちりめんに模様をつけ、好きな柄を自在に織ることが可能です。織物製造の体験ができます。
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②丸栄織物工場
昭和8年創業以降、89年にわたって着物や帯を中心に、紋ちりめんという柄や文様を織り込んだちりめんの製造を行っています。機織り体験のほか、柄を決める紋紙データの作成も体験できます。
③梅武織物株式会社
ネクタイや御守り、小物などの製織を手掛けます。合理化された生産現場で、アナログとデジタルの設備を使い分け、適用に応じて使い分けて生産されています。
④民谷螺鈿(8月24日情報追加しました)
西陣の伝統的織技法「引箔」の応用により、貝殻を織物にしています。着物用工芸帯の製作のほかに、木、革、漆などを使用した独自の織物を、ファッションやインテリア向けに螺鈿織とともに展開しています。
<講師の紹介>
本プログラムの講師をつとめる小林新也さんは、2011年に伝統産業を中心に全国の商品開発やデザイン、ブランディング、海外販路開拓、後継者問題などに取り組む「合同会社シーラカンス食堂」を地元の兵庫県小野市に設立。従来の弟子入りという承継の形ではなく、必要に応じて地域の複数の職人さんたちに教えてもらいながらトレーニングできる刃物職人の後継者育成のための鍛冶工房「MUJUN WORK SHOP」をオープン。この取り組みは『 WIRED Audi INNOVATION AWARD 2019 』を受賞しました。
小林さんには、刃物産業の後継者育成の取り組みについての講義や、課題解決のアイデアを導き出すためのワークショップ、参加者のアイデアに対してアドバイスをいただきます。
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小林新也さんコメント
伝統がつくものは、長い歴史の中でいろんな困難を乗り越えたものが今日に残されているのだと思います。今の問題も昔も同じようにあったかもしれません。今は効率化された社会基盤の上で伝統へ向き合っています。しかし、そもそもの「ものづくり」の時間軸と、我々の時間軸では大きな違いがあります。そのため、単年度で物事を考えたとしても、長期的ビジョンとそれに向かう数ヶ年で実行するプロセスをいかにデザインできるかが重要です。また、これに向かう揺るがない信念は、本質に辿り着いた思考がないと持てません。デザインの力が鍵となります。
<見学先>
①田勇機業株式会社
和装向けの製造のみでなく、独自の取り組みで、洋装・インテリア、アメニティなどに丹後ちりめんを広げる先進的事業者です。幅広く丹後ちりめんについて教えていただき、工場見学もさせていただきます。
②丹後織物工業組合
織り上がった絹織物などの繊維に含まれる不純物を取り除き、シルク本来の美しさと光沢を発揮させるための精練加工技術を見学します。
③京都府織物・機械金属振興センター
織物業と機械金属業を中心に、研究や技術支援等を行う京都府の公設試験研究機関。施設の見学を通して、産業の歴史を体系的に把握します。
④新シルク産業創造館
これまで京丹後市では、「無菌周年養蚕※による繭の大量生産」と 「繭、シルク(絹)の素材としての機能性」に着目し、 産学連携による基礎研究を進めてきました。その成果として、 無菌周年養蚕の手法を確立しました。
現在は民間企業と連携し、京丹後市産の繭から、シルク・織物関連事業に取り組んでいます。
※人工の無菌環境で蚕を育成すること
「海の京都」と呼ばれる、京都府北部に広がる丹後エリアには、抜群の透明度と鳴き砂で知られる「琴引浜」や「丹後松島」、日本の夕日百選に選ばれる「夕日ヶ浦」など、山陰海岸ジオパークにも認定された美しい日本海の風景が広がります。
キャンプやサーフィン・ダイビングなどのアクティビティや、間人ガニ、久美浜ガキなどに代表される豊富な海の恵み。そんな豊かな環境に育まれたこの地域では、300年を超える歴史をもつ「丹後ちりめん」を代表とする織物づくりが今も息づき、日本の着物文化を支えています。この伝統産業を次の100年に受け継ぐために必要なことを、ぜひ一緒に考えてみませんか?