就農できるように、譲る側が整える
農業に適した温暖な気候の岡山県瀬戸内市の沿岸部、尻海(しりみ)では、稲作や白菜、キャベツなどの重量野菜の栽培が盛んです。そんな尻海の瀬戸内海を一望できる丘の上で、ミニトマトの栽培を行う瀬戸内トマトファームの浦田知明さんは、国の就農支援制度である「農業次世代人材投資事業」を活用して、栽培技術と農園施設を継いでくれる人を募集します。
農業次世代人材投資事業とは、就農を希望する人を支援する事業で、研修の受け入れと、就農・独立して収入が安定するまでの補助をしてくれる制度です。
商社マンから39歳で新規就農したという浦田さん自身も、「農業次世代人材投資事業(旧青年就農給付金)」を利用し、兵庫県の有機農家で2年間の研修期間を経て、「自分に合っている」と感じたトマト栽培のできる農地を探して、岡山へやってきました。
岡山の研修先で「ロックウール栽培」と呼ばれる栽培方式を知り、自身も同じ栽培での独立をしたいと考えましたが、設備を新設する土地を貸してもらうことができませんでした。しかし、“たまたま”同じ栽培設備を引き継ぐことができ、念願のトマト農家になることができました。
「トマト農家になれるかどうかは、施設があるかないかが重要」と浦田さんは話します。
就農には、技術の習得や農地の取得、独立のための資金など、ハードルは決して低くありません。会社勤めから農家に転身した自身の経験から、その大変さをよくわかっている浦田さんは、次の人にも同じようなサポートをしたいと継業の準備をしました。
24時間自動で管理できる「ロックウール栽培」
瀬戸内トマトファームでは、ガラス窓のハウスと合わせて、オランダで開発された栽培施設を使用しています。先代から譲ってもらった施設ですが、「あと20年くらいは問題なく使用できる」と浦田さんはいいます。
「ロックウール」とは、鉱物から人工的に作られた繊維のこと。土を使わないロックウール栽培は、その上にチューブを這わせ、化学肥料を溶いだ水をポンプで流しながら育てます。給水や肥料の濃度を設定すれば、24時間、太陽以外は自動で管理することができるとのこと。
瀬戸内トマトファームは、1,200㎡の圃場で、栽培〜収穫のサイクルを年2回、2,500株を育てています。
先輩から学び、儲かる農家になる
「正直、収入、体力、精神的に順調なんです」と言う浦田さん。
なぜ「順調」なトマト農園を譲ろうと思ったのかたずねると、「新しいことに挑戦します」とニヤリ。何やら新しい企みがあるようです。
収入は約500万円が安定的に得られるのだそうです。
年間売上約750万円から土地代、収穫時のアルバイトの人件費、肥料や苗台など栽培原価約250万円を差し引いた残りが、収入になります。
国の補助制度が利用でき、施設も譲ってもらえるとなると、とても「おいしい話」に聞こえますが、課題や苦労はないのでしょうか。
すると浦田さんは、「夏の暑さ」をあげました。
「温暖化の影響からか、夏が年々暑くなっています。夏場のハウス内の作業はかなりキツいし、いずれは栽培スケジュールを変える必要があるかもしれない」と、環境への危惧を口にしました。
「農業次世代人材投資事業の受け入れ農家になったり、栽培設備を譲渡したり、条件は整えることができましたが、独立資金と覚悟は必要ですよ」と、先輩就農者・移住者としての厳しい顔ものぞかせます。
浦田さん自身も独立資金として500万円を貯めてから研修を受けたといいます。国の補助があり、継業後はすぐ収入が見込めるとは言え、研修中の生活費や設備を譲り受けるための資金は必要ですので、しっかりと計画を立てる必要があります。
「お互い人間なので、意見の相違はあるものですが、2年間は勉強するという姿勢が大事だと思います。あと家族への配慮もね」
やさしくも厳しくもある浦田先輩に学び、トマト農園を引き継ぎたいという方からのご応募をお待ちしています。