〈2024年2月19日 追記しました〉
2024年1月。東松島市大曲地区の「大曲浜のわかめ屋」に後継者として未来の漁師が着任し、修行が始まっています。
後継者として東松島市にやってきたのは、東京で左官会社に勤務していた工藤亮太さん。
「結婚し子どもが生まれたことを機に、自然豊かな場所で遊ばせたい」と考えるようになり、地方移住を考えるようになったそうです。
移住コーディネーターのサポートも受けながら、正式に着任するまでに2回の現地体験に足を運んだといいます。ほかの地域も訪れましたが、奥さまが東松島市の環境を気に入ったことが決め手となり、東松島市でわかめ漁師に転身することを決めました。
朝6時前には海に出て、わかめの刈り取りや出荷準備、市場へ配達を終えるのがお昼頃。定置網漁や道具の使いかた、修理方法などを学んでいます。師匠の相澤さんは「基本的なことを一緒に働きながら学んでもらっています。現場で見て覚えてもらうのが一番」と話します。
未経験で漁師の仕事は大変ではないですか?と質問すると、「今は毎日新しいことを学ぶので楽しいです。体を動かすことが好きなんですよね」と笑って答える工藤さん。
現在は数年ほど空き家だった古民家に住み、自分で改修しているのだそう。「東京では絶対に住めないような大きさの家です」と話すように、地方移住だからこそできる暮らしを楽しんでいる姿が印象的でした。
工藤さんは最大3年間は地域おこし協力隊として仕事を学びます。工藤さんのような地域の生業を継ぐひとや、起業をするひとなど、移住者が交じることで新しい風が吹いている東松島市に注目です。
震災を乗り越えるためにはじめた養殖業
宮城県東松島市大曲地区は県の中央、石巻湾沿岸部に位置するまちです。北と東に定川が流れ、西側はブルーインパルスで有名な航空自衛隊基地に囲まれた豊かな水田地帯でしたが、11年前の東日本大震災で発生した津波により、まち全体が壊滅的な被害を受けました。
震災後、わかめの養殖をはじめたのが、相澤高志(あいざわたかし)さんと津田満(つだみつる)さんです。今回、相澤さんのもとで操船技術やわかめ養殖、定置網漁について学ぶ人を「地域おこし協力隊」として募集します。
相澤さんは、元々は定置網漁の漁師。相澤さんの漁船は震災時、幸い流されずに残っていたそうですが、津波によって流された大量の瓦礫などによって海の環境が一変し、漁に出られない日々が続いた相澤さんたちは、わかめの養殖をはじめました。
震災後、漁に出られない期間は大曲地区の他の漁師たちもわかめの養殖をやっていましたが、漁が復活すると辞めてしまったのだそう。現在、大曲地区でわかめの養殖をやっているのは相澤さんたちだけになりました。
大曲地区では、もともとわかめの養殖をやっている漁師がいませんでした。しかし相澤さんたちはこの10年で、競合が少ない「生わかめ」の養殖技術、流通経路まで築き上げ、「辞めるつもりだったけど、辞められなくて、今まで二人でやってきてしまった」といいます。ただ、体力仕事でもある漁師の仕事を「体が動くうちに」譲りたいと、今回継いでくれる人を募集することになりました。
「生わかめ」の養殖と定置網漁
相澤さんたちのわかめ養殖は、10月に業者から購入した種苗をロープにくくりつけるところからはじまります。「生わかめ」を出荷しているため、わかめが1メートルほどに成長する1月ごろから刈り取りをはじめ、2月中旬ごろまで毎日刈り取り作業が続きます。相澤さんたちが育てる「生わかめ」は、若いうちに刈り取るためとても柔らかいのが特徴です。
刈り取り時期は、朝4時ごろに起床し、相澤さん、津田さんに加え、3名の従業員とともに5時半ごろには出港。4〜5時間ほど作業をして港へ戻ってきます。
刈り取り時期以外は、通年で定置網漁を行っているという相澤さん。今回募集する人は、わかめの養殖だけではなく定置網漁についても学ぶことができます。「やる気があれば、定置の技も伝えるし、道具もリースか場合によっては譲渡してもいい」と考えているのだそう。
「定置網の方がわかめより大変。風向きをみて網を入れたり引いたりする技術は、何パターンか覚えればいいという話ではないからね」
という相澤さん。定置網漁の技術は、長年積み重ねた経験や勘も重要になってくるようです。定置網漁は毎日漁に出るそうで、早朝に出港し、8〜9時ごろには港へ戻り、市場へ魚を出荷します。
船の操船技術修得には時間がかかるそうですが、季節を問わず早朝から船上での作業が続くため、まじめさだけではなく、やる気や体力も必要になってきそうです。
経営力があれば十分やっていける
技術を取得し、漁師仲間に認められるには、概ね5年くらいはかかると相澤さんは言います。地域おこし協力隊の任期は最長で3年のため、任期終了後もさらにあと2年は、相澤さんのもとで従業員として技術修得に励むことになります。
3年間の任期を過ぎても事業譲渡はせず、定められた就業日数を経て、漁師になる意志を固めたら、漁業協同組合に組合員加入の申請を行うことになります。組合で承認されれば組合員として加入することができますが、加入する際にはいくらか出資金が必要になってきますので、計画的に準備することが必要です。
また、漁業権は譲渡するものではなく、新規で取得する必要があります。わかめ漁と定置網漁でも取得のハードルが異なり、定置網漁の方がハードルが高いそうです。5年間の技術習得を得た後でも必ず定置漁業権を取得できるとは限りませんので、日頃から仲間と信頼関係を構築することも大切です。
移住して生活するにも、漁協の組合員方に認められるためにも、地元住民の信頼を得ることは必要不可欠ですので、現地の移住コーディネーターがしっかりサポートします。
「農業は作付面積によって収穫量が決まっているけど、海の場合は上限が決まっていない。マイナスになることもあるけど、そこもまた面白さ。どうやったらたくさん獲れるかなって考えるのが面白い」
と相澤さんはいいます。
相澤さんのもとで最低限の技術を修得したあとは、創意工夫次第で収入を増やすこともできそうです。「わかめは、塩蔵わかめよりも市場価格が高い『生わかめ』を扱っているし、定置網漁は、どれだけ経費をかけないかが大事。季節によって入ってくる魚は大体決まっているから、『技術』と『経営力』があれば十分やっていけるくらい稼げる」と相澤さん。
豊かな海へ回復しつつある大曲の海で、復興の一歩としてはじめた「わかめの養殖」を継いでみたいという方からのご応募お待ちしています。