
音楽と書が流れる空間
福島県会津盆地の北に位置する喜多方市は、重厚な土蔵が連なるまち並みで知られ、全国から多くの旅人が訪れる「蔵のまち」です。
戦国末期の町割りに始まり、江戸時代には定期市が開かれる交易の中心地として発展しました。味噌・醤油・酒などの醸造業も盛んに栄んで、歴史と文化が今もこの土地に息づいています。 喜多方ラーメンと蔵の町並みに象徴されるこのまちには、表通りだけでなく路地裏にまで蔵が残り、人々の暮らしと文化が自然につながる空気が今も流れています。
そんな喜多方市の中心部に近い長屋の一角に、ギャラリー扇があります。かつてここには、書の好きな人たちが集まり、お茶を飲みながら作品を眺め、音楽に耳を傾け、笑い声が絶えませんでした。地域の顔なじみが訪ね、初めて来た人もやがて常連になる。そんな温かい交流の場が「ギャラリー扇」にはありました。
しかし、昨年に代表の菊地さんが逝去されたため、惜しまれながらも閉店となりました。
これまでと同様の使い方はもちろん、新たな形でこの場所を活用してくれる方も歓迎。地域の憩いの場を残してくれる担い手を募集します。
空間が紡いできた、人と人のつながり


もともとは小さな居酒屋でしたが、地域の多様な人たちが気軽に訪れ、交流できる場所をつくろうと、長屋の仕切りを活かして片方を居酒屋に、もう片方をギャラリーへと改装したことがはじまりでした。壁は防音仕様に整え、フローリングはご主人が自ら貼り直し、利用者がそれぞれの使い方をしながら「誰かを招くことができる場所」として少しずつ形になっていきました。
壁に並んだのは、書道の作品たちです。喜多方市出身の書道の指導も行う地元の書家が手がけた作品で、喜多方市の熊野神社にゆかりのある書家の筆によるものも含め、小さな空間に20点から30点ほどが静かに並び、どれも額装にこだわり、ただ飾るというより、一点一点と向き合えるよう丁寧に配置されていました。
訪れる人たちは、作品を眺めながらテーブルに腰を落ち着け、お茶とお菓子を囲んで談笑しその空間を楽しまれていたそうです。
時には音楽が流れることもあり、クラシック音楽を愛したご主人がバイオリンやチェロの音色を空間に添えることもあったといいます。ふらっと足を運んだお客さんが作品を気に入ってそのまま購入していくこともあり、商いと文化がごく自然なかたちで混ざり合っていました。大きなイベントでも特別な催しでもなく、地域の人たちがふらりと立ち寄り、気がつけばひとときを過ごしていく。そんな空間として「ギャラリー扇」は続いていました。
小さく始めて、自分らしく育てる。


広さは約55平方メートル。こぢんまりとした規模ですが、水回りも整備されており、カウンターとテーブルが置けるほどの余裕があります。冷蔵庫も1台残っており、ギャラリー時代のテーブルや椅子も活用可能です。建物前のスペースには自転車や軽自動車1台分の駐車スペースもあります。
「ギャラリー、飲食、エステ、接骨院、マッサージといった業態は近隣のお店とも親和性がありそうですが、 使い方は特に限定していません」と菊地さんは話します。最初の一歩を踏み出したい方、大きな投資をせずに小さくスタートしてみたい方にとっては、物件のサイズ感も含めて挑戦しやすい条件となっています。
この場所が育んできた時間をつなぎたい
業態にこだわりはなく、まったく新しい使い方でも構わないと話す菊地さんですが、ただ一つ大切にしてほしいのは、この場所が育んできた地域との関係性です。
書の好きな人が集まり、音楽を聴き、お茶を飲みながら笑い合う場所。その空間をすべて再現することはできなくても、新しく来た人が地域の顔になり、またここに人が集まってくる 。そういう場所であり続けてほしいという願いが、菊地さんの言葉の奥にありました。
菊地さんはこの場所で育んできた時間を繋いでくれる次の担い手を待っています。
