秋田の環境により育まれた伝統工芸
天然秋田杉の年輪の揃った細かく美しい木目が生むやさしい手触り、杉の豊かな香り、伸縮が少ない耐久性の強さが魅力の「秋田杉桶樽(あきたすぎおけたる)」は、良質な杉を育む一方で、雪が多く仕事が限られた秋田の冬の手仕事として技術が磨かれた秋田の伝統工芸で、経済産業大臣指定伝統工芸品にも選ばれています。
秋田城跡から戦国時代のものとみられる桶の一部が発見されるなど、長い歴史を持つ秋田杉桶樽。江戸時代には佐竹藩のもとで産地が形成され、秋田の暮らしの必需品として親しまれてきました。しかし、近代化とともに代替素材による大量生産品が普及し、普段の生活で桶樽を見かける機会は少なくなり、担い手も減少、その技術の承継が危ぶまれています。
天然秋田杉桶樽の歴史と伝統を継ぐ
佐藤秋男さんは、秋田杉桶樽職人の最年長。この道34年の大ベテランです。
30歳の頃、やさしそうな天然杉の色に惹かれ、秋田杉桶樽を製造する会社に転職。「はじめたのが遅かったから」と、仕事が終わった後も毎晩、練習をして技術の習得に励み、国家認定資格である「伝統工芸士」に認定されるほどの職人となりました。
現在は独立し、自身の工房を構えて、ものづくりと向き合っています。
秋田杉桶樽は、割る・削る・組み立てるというシンプルな行程をすべて手作業で行います。
丸太から、短冊状にした柾目(まさめ)と板目(いため)の榑(くれ)をつくり、それらの外側と内側を曲線に削り出し、輪のように立てて、底板や蓋をつけた後、表面を仕上げます。最近は、伝統的な桶樽のほか、その技術と特徴を活かし、カップやワインクーラーなど、現代のライフスタイルに合わせた商品も製作しています。
「自分のイメージ通り仕上がって、それをお客さんが喜んでくれるのがうれしいんです」と佐藤さんは言います。
秋田杉桶樽の中でも特に貴重とされるのは「天然秋田杉」を使用したものです。
秋田杉は「青森檜葉」「木曽檜」と並び三大美林と称され、秋田県北部の米代川流域の中~下流部および雄物川流域に集団分布するほか、男鹿半島、秋田市仁別、森吉山、鳥海山などにも分布しています。鮮やかな鮮紅色でつやが良く、軽くて弾力性に富むなどの特徴があり、天然秋田杉と呼ばれるのは250年以上自生したものに限られます。
現在、天然秋田杉は自然保護の観点から伐採禁止となっていますが、佐藤さんは、これまでのキャリアの中で出たたくさんの端材を集めてきました。「マタギの鉄砲玉が食い込んでいることもあります」と秋田らしいエピソードも聞かれます。
また、引退した先輩職人たちの道具を譲り受けている佐藤さんは、それらを大切に手入れをしながら使い続けています。
佐藤さんの後を継ぐということは、佐藤さん個人の技の伝承だけなく、先人たちの知恵や思いも合わせて継いでいくことなのかもしれません。
通いながら、もしくは移住して技術を承継
佐藤さんからの技術承継は、週1回程度マンツーマンで行いたいと考えています。
習得期間は人それぞれにはなりますが、「あと10年は続けるつもりなので、その間に僕が教えられるものはすべて教えたい」と佐藤さんも自身の技術承継に熱意を持っています。
しかし、伝統工芸士であっても、「工芸専門で稼ぐのは大変」だといいます。佐藤さんも年金があるので、こだわったものづくりができているのが現実。承継するには工芸以外の収入か蓄えが必要です。
幸い、北秋田市には大館能代空港があり、羽田空港から70分。空港から工房までは車で20分ほどなので、首都圏から通うことも可能です。
また、北秋田市でも雇用対策や資格の取得支援も行っているので、移住をしての承継もご相談ください。
「天然秋田杉桶樽」の技術を伝統工芸士から直接学ぶ機会は、そうあるものではありません。日本を代表する伝統工芸の担い手として、佐藤さんに弟子入りを希望する方からのご連絡をお待ちしています。