
新潟県南魚沼市の豊かな自然に囲まれた「ふえき農園」では、地元の在来種「さといらず」を使った有機豆腐作りを一から学び、事業を引き継いでくれる後継者を募集しています。
南魚沼で育まれる大豆「さといらず」と豆腐作り
豊かな自然に恵まれた新潟県南魚沼市。この地で有機農業とこだわりの豆腐作りに取り組んでいるのが「ふえき農園」です。笛木(ふえき)ご夫妻は、農薬を一切使わずに大豆を栽培し、その大豆を使って豆腐を製造・販売しています。
ふえき農園が特に力を入れているのが、地元の在来品種の「さといらず」という大豆です。この大豆は、その名の由来「砂糖がいらないほど甘くて美味しい」と伝えられている通り、ふえき農園の豆腐の美味しさを支える根幹となっています。
しかし、「さといらず」は収量が少なく、栽培も難しい品種。それでも、その美味しさと在来品種を守りたいという笛木さんご夫妻の情熱が、日々美味しい豆腐を生み出しています。
大豆農家から豆腐屋へ。情熱が生んだこだわりの味



ふえき農園の始まりは、笛木さんご夫妻が新潟県南魚沼市大月で農業を始めた2014年頃に遡ります。当初は野菜作りも行っていましたが、転機が訪れたのは2015年。長岡市で自然食品店と豆腐屋を営んでいた師匠となる方が引退するにあたり、その豆腐作りを引き継ぐことになりました。
「元々、有機農家として野菜や大豆を生産して、それを農産加工品にしたいと考えていました。実際に事業を始めてみると、豆腐の売り上げがほぼ100%を占めるようになり、今では大豆農家であり、豆腐屋でもあるというかたちになっていますね」と笛木さんご夫妻は語ります。
豆腐作りを始めて間もない頃は、試行錯誤の連続だったと言います。師匠から引き継いだお客さんからは「味が違う」といった手厳しい声も聞かれたそうですが、ようやく最近になって「美味しいね」という声が聞かれるようになり、お客様に喜ばれることが何よりのやりがいになっています。今ではその味が認められ、熱心なファンに愛されています。
現在、ふえき農園では年間約2.5トンから3トンの大豆を生産し、そのほとんどを豆腐の製造に使用しています。豆腐の製造は月・水・土曜日の週3日。朝4時に起きて製造を開始し、午後は片付けと配達で夕方5時頃まで作業が続きます。1週間で豆腐換算約500丁を製造し、自然食品店を中心に卸売りしています。
豆腐製造のない日は大豆栽培の作業です。6月の播種から始まり、中耕による除草作業を繰り返し、10月中下旬から雪が降るまでの収穫作業と、年間を通じて忙しい日々が続きます。農薬を使わない栽培のため、除草はすべて中耕と手作業で行います。


アフリカから有機農業へ。笛木さんの半生と農業へのこだわり
夫の謙さんの農業に対する情熱は、そのユニークな経歴に裏打ちされています。
高校時代にアフリカの食料問題に関心を持った笛木さんは、東京農業大学を卒業後、タンザニアの農場で3年間、マカダミアナッツの生産に携わりました。「度々マラリアにかかって一時帰国した際に、医者から次マラリアにかかったら死ぬよ。いい加減もういいんじゃない?」と言われて、日本に残りました。
その後、東京の商社で農産物の原料仕入れの仕事をしていましたが、『俺は実際に作る仕事をしたかったんだ』という思いが募り、茨城県の有機農家さんのもとで2年間露地野菜栽培を学び、独立して10年間路地野菜生産者として営農してきました。様々な経験を重ねる中で奥さんと出会い、最終的に奥さんの実家のある新潟県南魚沼市に拠点を移し、有機農業と豆腐作りに行き着きました。
「有機農産物は、やっぱり美味しいんです。」有機農業へのこだわりは、農薬を使わないことによる食の安全への配慮はもちろん、「化学肥料頼りだと土がボロボロになって続かない。」という強い危機感から来ています。
「輸入品ばかりに頼っていたら、日本の食料自給は先細りになってしまうと思います。だから、うちのスタイルじゃなくてもいいので、有機農業がもっと広がっていってほしいと願っています」と、笛木さんご夫妻は日本の農業の未来を見据えています。

労働と収入のバランスが課題。次世代へ託す「価値ある仕事」
長年の経験と情熱で美味しい豆腐を作り続けてきた笛木さんご夫妻ですが、近年は事業承継を考えるようになりました。
「正直なところ、体がきつくなってきたんです。今まで10年かけて作り上げてきたこの仕事を、若い人に引き継ぎたいと思っています」と、現在の心境を明かしてくれました。
ふえき農園の課題は農業界全般に言えることですが、労働時間の長さに対する収入のバランスです。笛木さんご夫妻2人で生計を立てるには十分な収入がありますが、もし後継者が家族を養うとなると、現状のままでは厳しい面があります。また、既存の顧客も高齢化が進んでいるため、新規開拓も必要となります。
しかし、笛木さんご夫妻はこの仕事を「価値のある仕事」「尊いもの」という信念で続けてきました。「有機で大豆を作り、それを豆腐に加工して消費者に届けることは、本当に価値のある仕事です。この価値に共感し、日本の農業の未来をともに考えられるような方に来ていただきたいですね」と、後継者への期待を語ります。
後継者には、豆腐製造に必要な機械一式を無償で譲渡する予定です。また、1〜2年間は一緒に作業をしながら、大豆栽培から豆腐製造まで一連の技術を丁寧に指導します。新規就農準備資金などの公的制度の活用も検討しており、研修期間中のサポート体制も整える予定です。


雪国の気候を味方に、未来へつなぐ豆腐作り
ふえき農園の豆腐作りの魅力は、地元の在来大豆「さといらず」の美味しさだけではありません。自然豊かな南魚沼市の気候も、豆腐作りに大きく影響しています。雪が降る直前まで「さといらず」の収穫が続きます。そして雪解けまで農業は一旦お休みになる栽培サイクルも、ふえき農園の豆腐の個性を形作っています。
「作りにくい品種ですが、美味しいからこそ続けていきたいんです。この地元の豆を守りながら、美味しい豆腐を作り続けてくれる後継者に出会いたいです」と笛木さんご夫妻は熱い思いを語ります。
ふえき農園の事業承継は、単に豆腐作りを引き継ぐだけでなく、有機農業という選択、そして日本の食の未来を守る尊い仕事を引き継ぐことでもあります。
ふえき農園が培ってきた有機農業と豆腐作りの技術、そして在来大豆「さといらず」への情熱を、次の世代に引き継いでくださる方を募集しています。 この「価値ある仕事」をともに育み、日本の食の未来を創造していきませんか?