プロ野球チームのキャンプ地に選ばれるほど、暖かい気候が特徴の宮崎県日南市。シャッター街と化していた商店街の空き店舗にIT企業を誘致し、地元に雇用を生み、「油津商店街の奇跡」は地方創生の先進事例として取り上げられることも多く、一度は名前を聞いたことがあるかもしれません。
その一方で、店主の高齢化や後継者がいないことを理由に、長く続いてきたお店がある日突然閉店してしまうという事例が増えているといいます。地域住民はもちろん、観光客にとっても立ち寄れる場所が減り、まちから活気が失われつつあります。日南のまちに、にぎわいを取り戻したいーー。そこで、日南市は「継業サーチャー」として地域おこし協力隊を募集することを決めました。
日南市役所・商工政策課で事業承継に取り組む、蛯原さんにお話を伺いました。
日南のまちににぎわいを取り戻したい
日南市は、2021年10月に株式会社エスプールとココホレジャパン株式会社と「事業承継に関する包括的連携協定」を締結。宮崎県日南市継業バンクを開設し、後継者不在事業者の調査や事業再生の支援等による後継者課題解決に取り組んできました。
市内の事業者を対象にアンケート調査を実施したり、商工会議所と連携して事業者のヒアリングを重ねましたが、事業者のリアルな声を拾い上げきることは難しかったといいます。
蛯原さん「事業者さんにお話を伺うなかで、『事業承継は家庭内の問題で、他人には話しにくい』と思っている方が多いように感じました。
後継者不在の事業者さんの継ぎ手を見つけることができればと、継業バンクの運用を始めたのですが、地元で有名なお店がやめてしまったというお話を耳にすることは増える一方でした」。
日南市に限らず、高齢化に伴う後継者不足は全国の地方都市の喫緊の課題です。しかし、行政の日々の業務がある中で手が回らないもどかしさもあるのだそうです。
蛯原さん「市としてはこれからも事業承継に注力していきますが、地域に根付いて事業承継に関わっていただく専門担当が必要だと考え、今回の募集に至りました」
継業サーチャーの仕事
「継業サーチャー」という名前の通り、継業(事業承継)に特化した地域おこし協力隊です。任期は1年間で、後継者がいない事業者が、市役所や商工会議所などに相談しやすい雰囲気をつくることがミッションです。
日南市継業バンクの運用や、都道府県単位で設置されている事業承継・引継ぎ支援センター、商工会、地元の金融機関と連携し、後継者不在の事業者向けにセミナーを行うなど、日南市内の事業者に対して、事業承継を考える機運を醸成してほしいと話します。
蛯原さん「日南市には9つのエリアがあるので、幅広く地域を回っていただきたいと思います。また、1年間の活動を通して、後継者にお困りの事業者さんを掘り起こしながらも、ご自身で継業する選択肢もあると思います」
継業サーチャーのユニークなところは、任期終了後に自分自身が後継者になることもできるということ。任期期間中に承継したい仕事が見つかった場合は、任期を1年間延長し、技術やノウハウの習得など、承継に向けた準備期間に充てることができます。
蛯原さん「コンサルティングではなく、地域にどっぷり入り込み、市役所と一緒に後継者課題に取り組んでくれるパートナーのような存在だと考えています。地域で長く続いてきた仕事を継ぐことに価値があると思っているひとにお任せしたいです。
また、もしも任期中に承継したい仕事に出会えなかった場合は、任期終了後に日南市内での創業を目指してほしいと思います」
これまで商工政策課では、1年間の任期中に創業を目指すスタートアップ型の地域おこし協力隊制度を運用してきました。1年間は短いように感じますが、創業支援の補助金制度も充実しており、協力隊の卒業生※の9割が日南市に定住しているのだそうです。
※日南市役所商工政策課における採用
日南市にある魅力的な仕事
日南市には、一次産業を中心に多岐にわたる仕事があります。穏やかな気候で育つ柑橘類や、飫肥杉による林業、マグロやカツオを中心とした漁業が有名です。また、スイートピーの生産量は日本一。
一次産業の高齢化による後継者不足も課題ですが、今回の募集に至った背景は「日南ににぎわいを取り戻すこと」なので、飲食店を中心としたまちの活力創出に直結する事業承継に取り組んでもらうことが狙いです。
蛯原さん「僕自身、日南市で生まれ育ちましたが、お店が閉まっていくのはとても寂しいですし、もったいないと思います。
事業者さんにお話を伺うと、ご自身の仕事の魅力を低く見積もられている方も多いことに気づきました。思いが詰まった日南らしい仕事を次の世代に繋ぐためには、今が正念場だと思います」
ぼくは中継ぎ役。43年続くまちの味を守るために挑戦する喫茶店「五番館」
日南市のグルメには、絶妙な柔らかさと歯ごたえを併せ持つみやざき地頭鶏や、「一本釣り漁業」による漁獲量日本一を誇るカツオ料理などがあげられます。また県内で最も焼酎蔵元が多く、様々な種類の焼酎を堪能することができます。
また、日南グルメから消失したら悲しいものを伺ったところ、「絞り切れません(笑)」とのこと。日南らしい食文化を引き継ぐことは、日南市民はもちろん、地域の方からもきっと喜ばれるはずです。
これまで日南市は、商店街の再生や企業誘致など、全国に先駆けた取り組みを促進してきました。そんなチャレンジ精神が根付いた日南市で、後継者課題の解決に取り組み、まちににぎわいを取り戻す「日南市継業サーチャー」へのご応募をお待ちしています。