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2025.04.09

「継業エリアマネージャー」と二人三脚で取り組む新潟県津南町の継業支援

継ぐまち、最前線

〈 この特集は…〉

地域で長く愛され、まちの個性となっている飲食店や一次産業、ものづくり産業、などの小規模事業者たち。しかし、多くの地域では後継者がいないことが理由で、歴史が途絶えてしまうかもしれません。自治体に求められているのは、事業の後継者を探し、地域の価値を承継すること。継業バンクを活用して継業が生まれた自治体の担当者に、活用に至った背景や成果をうかがいます。

地域:新潟県津南町

担当者:観光地域づくり課 風巻 領さん、継業エリアマネージャー 緒方 麻弥さん(ココホレジャパン)

農業のまちが抱える、事業承継課題

日本有数の豪雪地帯として知られる、新潟県津南町。例年3メートルを超える積雪の雪解け水は清らかで豊富な湧水となり、肥沃な大地を生み出します。そんな豊かな自然環境で育つのは、国内トップクラスのブランド米、魚沼産コシヒカリをはじめ、雪下にんじんやとうもろこし、アスパラガスなどの農作物。米のみならず多くの特産品をもつ農業のまちです。
そんな津南町では2022年に「継業バンク」を開設。それまで事業承継課題に対してあまり積極的に取り組むことが出来なかったという津南町ですが、継業バンク開設にはどのような背景があったのでしょうか。そして継業バンクが町にもたらした影響とは? 津南町観光地域づくり課の風巻 領さんと、津南町で継業エリアマネージャーとして活動する緒方麻弥さんにお話を伺いました。

津南町観光地域づくり課・風巻 領さん
津南町継業エリアマネージャー・緒方 麻弥さん

「継業バンク」導入以前は、事業承継の相談が来てから案件ごとに都度対応していたという津南町。しかし、相談もなくひっそりと廃業してしまう事業者が多く、まちの商工業が衰退していくことへの課題感は常にあったといいます。

とはいえ、町が抱える課題は事業承継だけではありません。少子高齢化や人口減少が進む中、町の産業流出により働き口が減少。これを解消する一手として、津南町の抱える様々な地域課題を一緒に解決してくれるベンチャー企業の誘致に取り組み始めました。そしてこのことが、「ニホン継業バンク」を運営するココホレジャパン株式会社と出会うきっかけになったといいます。

「地域課題解決型の企業誘致をサポートしてもらっている企業から、『事業承継課題の解決ができますよ』とご紹介いただいたのがココホレジャパンさんでした。社長の浅井さんから継業バンクの特徴や仕組みを直接伺って、継業バンクはオープンネーム型のマッチングサービスで、成功報酬型のM&Aとは違って町がお金を出すので、小規模の会社や個人事業主でも相談しやすいと聞き、ぜひ一緒にやりたいとスタートしました」

継業バンク開設に必要な費用は補正予算を組んで対応するなど、スムーズに話は進んだ

継業バンク開設後は、まず町の事業者を対象に「事業承継とは何か」を周知するためセミナーを実施。その中で1件、後継者募集の記事を継業バンクに掲載できたものの、以降はセミナー参加者も相談者もなかなか増えなかったといいます。事業承継課題に対してやりたいことはたくさんある。しかし、当時の役場の中で商工業の担当者は1〜2人。そこに割ける人員がおらず、思うように支援が進まないというのも課題でした。

そこで、継業バンク開設から約2年後の2024年4月、事業承継を推進する拠点として「継業サポートセンター」の設立と、事業承継支援に専門的に取り組む「継業エリアマネージャー」の募集を開始。継業エリアマネージャーは地域おこし協力隊の制度を活用し、ココホレジャパンが雇用。社員を派遣する形式で配置することにしました。

「今回は単に地域おこし協力隊を募集するだけではダメで、ココホレジャパンさんに所属して、継業のノウハウを持った人に来てもらわないと、と思っていました。当時はリソースもないし、ノウハウもないという状況だったので、ある程度知識があって、自分で走ってもらえる人に来てもらうのが大事なポイントでした」

継業サポートセンターがある、まちなかオープンスペース「だんだん」。コワーキングスペースや貸出し可能な書架を備える

継業エリアマネージャーの着任を機に本格スタートした承継支援

WEB説明会や応募者との面談などを経て、最終的に継業エリアマネージャーとして津南町にやってきたのが、緒方麻弥さんです。もともと長野県で地域おこし協力隊として活動していた緒方さん。なぜ今回の募集に応募し、縁もゆかりもない津南町に移住を決めたのでしょうか?

「長野県で地域おこし協力隊をしている時に、地域の事業者さんとお話しすることが結構あって、やっぱり個人の農家さんがずっと『後継者を探してるんだよね』と言っていて。ただ、その時は私自身も継げないし、『どうしてあげたらいいんだろう』と思っていました。後継者課題をリアルに感じていたので、『継業バンク』を知ってからは自分も中に入って一緒に取り組みたいという思いがあって。この仕事がしたい、だから私、津南に行きます!っていう感じでここまで来ました」

応募の際、面識のないココホレジャパン代表・浅井のMessengerに直接連絡したという熱意溢れる緒方さん

津南町への引っ越しなどを終えて、継業エリアマネージャーに着任したのは2024年7月。こうした取り組みは町の広報誌や地元の新聞などでも取り上げられ、注目を集めました。事業承継に対する町の変化について、風巻さんはこう話します。

「津南町は農業のまちなので、事業承継というと農家の田んぼを継ぐとか、個人の田んぼを集約して法人で経営することなどは一般的だったと思いますが、農業以外の商店などをやっている人には『そういうのって小売業のうちにも当てはまるの?』という感じだったと思います。だからまず『事業承継って何だ』という認知を広めるところから始まっているのですが、緒方さんが着任して色々なところで取り上げられて、多方面に周知されていった感じがします」

緒方さんの着任後は、それまで不定期開催だった事業承継の相談会を毎月実施。さらに、商工会加盟店や農業法人などの事業者を対象に事業承継に関するアンケートを行い、その回答をもとにヒアリングを実施しているほか、毎日のように地域の商店などを訪問して、世間話をしながら情報収集するのも緒方さんの重要な業務のひとつです。

「事業者さんを訪問して挨拶しつつ、チラシを持って『今、継業相談会やってます』とさりげなく話したりすると、流れで『実は〜』と話してくださることもあります。自発的に相談に来てくれる方はまだまだ少ないので、自分から行かないといけないというのは感じていますね。あとは商工会さんや金融機関さんにもご挨拶に行って、困っている事業者さんがいれば情報共有してほしいとお話ししたり。そんな感じで、空いている時間は基本的に外に出て地域の中を動き回ることが多いです」

「世間話から『実は…』を引き出せるのは緒方さんの人となりですよね」と風巻さん

緒方さんの地道なヒアリングの甲斐もあり、それまで1件のみだった継業バンクの募集記事も4件にまで増え、今まで拾いきれなかった事業者の声も少しずつ聞こえてくるようになりました。

そうした活動を経て、町の中で少しずつ事業承継支援の取り組みが認知され始める中、ついに津南町で継業バンクを通じた初の継業事例が生まれます。

「いつの間にか廃業」を防いだ継業事例の誕生

緒方さんの着任から2ヶ月後の2024年9月、町役場へ事業承継の相談に来たのは、地元で長年愛される食堂「喰い処 味郷(みさと)」を切り盛りしていた津端さん夫妻でした。

もともとその年の11月末に閉店予定でしたが、物件の大家さんから「残したほうが良い」と言われ、事業承継の相談にやってきたといいます。その時点でタイムリミットは2ヶ月。「後継者が見つかるかわかりませんが、載せてみましょう」とすぐさま継業バンクへの掲載が決まりました。

そして、その掲載された記事を見たのが、飲食店での経験も豊富な隣町に住む阿部康一さん。自分のお店を持ちたいと思っていた矢先、ニュースサイトに掲載されていたこの記事を見て応募し、そのまま継業に至りました。屋号も内装もメニューもすべてそのまま受け継がれ、多くの人に親しまれてきた地元の味と場所が守られた瞬間でした。

「喰い処 味郷」の先代・津端ふさいさん(左)と、後継者の阿部康一さん(右)

「これまでは相談もなく、そのまま閉じるっていうパターンが普通だったので、窓口まで相談に来てもらえたことは本当にありがたいですね」

風巻さんがそう振り返る通り、様々な取り組みを通して津南町の事業承継支援が少しずつ認知されてきたからこそ、「誰かに継業する」という選択肢が生まれ、津端さん夫妻は「役場へ相談に行く」という行動まで進むことができたのでしょう。この事例は、津南町の事業承継支援がさらに前進する大きなステップとなったはずです。

やるべきことはまだまだある、これからが本当のスタート

2024年は継業サポートセンターが設置され、緒方さんが継業エリアマネージャーに着任し、大きな一歩を踏み出した津南町。しかし、風巻さんも緒方さんもまだまだ課題は多いと口を揃えます。特に、日々地域の情報収集に取り組む緒方さんは、まだまだ拾いきれていない情報が多いことに課題を感じています。

「個人の農家さんなど小規模事業者さんの情報が本当に拾えてなくて、気づいたらもうやめてるっていうことがリアルにあります。なので、そこの情報をいかに早く拾えるか。まだ自分が継業エリアマネージャーとして認知されてないのもすごく感じてますし、もっと自分自身の顔を知ってもらうとか、他の地域おこし協力隊のメンバーにも協力してもらうとか、ひとりでは無理なのも感じているので、いろんな人に協力してもらって情報を集められる体制を組んでいく必要があると思っています」

さらに今後の展開として、視察の受け入れや地元の商工会や金融機関との連携をさらに強めていきたいと風巻さんは話します。

「味郷さんの事例は新聞にも取り上げてもらって、金融機関さんから『どういう取り組みをされているんですか』と問い合わせをいただいたんです。こうした町の取り組みを金融機関さんにも知ってもらえたと思うので、地域全体でそういった廃業してしまうものを取りこぼさない仕組みづくりがまたひとつできたと感じています。これからそれを広げていって、金融機関さんや商工会さんとの連携をさらに密にしていくことで、事業者の皆さんに安心して相談に来てもらえる体制づくりができればと思っています」

「私自身、シャッター街化している商店街の商店の息子なので、活気を取り戻したいという気持ちは強い」と話す風巻さん
緒方さんは「今後は伝統技術や文化の承継にも取り組みたい」とも話す

ほかにも、移住者の働き口として継業を活用するなど、移住支援と組み合わせた仕組みづくりを検討したいと話していた風巻さん。緒方さんもそれに対して「うんうん」と相槌を打ちながら、ふたりで「あれもしたい」「こういうこともやらなければ」と話す姿に、二人三脚で歩む日頃の関係性が垣間見えた気がしました。

津南町の事業承継支援はまだまだここからがスタート。継業サポートセンターや継業エリアマネージャーの配置など、柔軟な発想で新たな物事をフレキシブルに取り入れていく津南町の取り組みの今後に、要注目です。

まちなかオープンスペース「だんだん」外観

津南町では、事業承継支援事業に関する視察を受け入れています。お気軽にお問い合わせください。

募集要項

視察プランについて

 

本プログラムでは、新潟県津南町をフィールドに、「地域経済を支える。自治体による継業、事業承継支援策を知る」をテーマに、現地常駐の継業エリアマネージャーから、現地にいて感じる課題・課題解決に取り組むための姿勢、活動についてご説明させて頂きます。

 

①ニホン継業バンクについて取り組みや事例についてのご説明

  • 継業サポートセンターについて
  • 支援体制の構築
  • 継業バンクの活用方法・実績
  • 地域おこし協力隊制度の運用

 

②フィールドワーク

  • 実際に事業承継された事業者訪問
  • 継業バンクに掲載されている事業者訪問

 

③振り返り

  • 取り組みなどの説明を受けて、自らが住む地域課題に落としたときにできる事や課題などのディスカッション

 

地域産業を残していくために、できる事、方法を伝えていくことで、地域課題に向き合いどう取り組んでいくか参考にしていただければ幸いです。

 

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