循環型社会を目指す鹿児島県大崎町
九州の最南端でもある鹿児島県・大隅半島東部に位置する大崎町。町の南部を望む志布志湾では水産物に恵まれ、北部の広大な土地では温暖な気候を生かした良質な農畜産物が育まれています。
大崎町の代名詞といえばリサイクル。自治体別一般廃棄物リサイクル率日本一を過去14回達成しています。さらに、「リサイクルの町から世界の未来をつくる」というキャッチコピーで、すべての資源がリサイクル・リユースされて循環する「サーキュラーヴィレッジ・構想」を打ち出しているところです。コミュニティ組織でもある「衛生自治会」が中心となり、各自治会のごみの分別における指導や支援を行っています。
また、ふるさと納税にも力を入れており、平成27年度には全国4位の寄附額を集めました。鹿児島県1位の生産量を誇るマンゴーや、パッションフルーツ、鰻など、食材の宝庫といわれる大崎町ならではの返礼品が人気です。ふるさと納税の寄附金を活用して、子育て支援のための事業や、北海道東川町と共同でおこなっている「リサイクル留学プロジェクト」など、町の未来をつくる活動に力を入れています。
飲食業界未経験の夫婦が営む「金太郎」
大崎町中心地から車で5分程走ったエリアに、町内だけでなく町外や県外からのファンを集める食事処「金太郎」があります。鹿児島県出身のご夫婦がふたりで切り盛りしています。ランチ時間はトンカツや唐揚げを求めるお客さんで賑わいます。
ふたりは2001年まで鹿児島市内でラーメン屋を営んでいましたが、出身地の近くでお店をやりたいと、大崎町に移転してきたそうです。かつてはラーメンもメニューにありましたが、厨房が手狭になったため、トンカツと唐揚げの2種類のみに切り替えました。
「金太郎」のこだわりは、信頼関係のある鹿児島県内の事業者から仕入れている材料を扱っていること。佐久間さんが毎日味をチェックし、それを奥様の妙子さんが調理してお客様へ提供しています。
大将の「揚げ技」から作られるトンカツや唐揚げは、お肉本来の旨味を引き出し、肉汁も溢れジューシーな味わい。揚げ方も特徴的で、2度揚げではなく、9割揚げて、1割は余熱で火を通しています。そうすることで、味や食感が良くなるだけでなく、スピーディに供給できるそうです。
「金太郎」の特徴は、お客さん自身に配膳してもらうこと。初めて来店した方は驚かれることも多いそうですが、常連客は慣れたように注文したメニューを配膳していきます。
大崎町出身で役場職員の方は、金太郎の思い出についてこう話します。
「社会人になり剣道の大会の打ち上げを『金太郎』で開催した時の話です。一緒に行った先輩たちは常連だったからか、大将から「好きにやっていいから、ビールは自分たちで注いで、お金も自分たちでチェックしとけよ!」と言われていて。特にビールがセルフサービスだったのにはびっくりしました(笑)。焼酎の持ち込みもできましたし、夜の値段が安くて、そこに大将や『金太郎』の心を非常に感じました」
奥様の妙子さんは、実は今でもこのスタイルには少し抵抗があるのだそうです。
「あまりウチの店のようなスタイルはないと思います。「お客さんになんてこと言うんだろうか…」って。きっとお客さんには「あの大将は変な人だな」って思われているんでしょうけど、小さな町だから成り立っているんだなと感じますし、私たちを受け止めてくれるお客さんには感謝しかありません」
店主である佐久間さんのキャラクターや、珍しいセルフサービスという体験が忘れられず、何度も足を運ぶお客さんもいるのだとか。店主のキャラを強く感じられる、人情味のある雰囲気のお店です。
周囲からの「続けてほしい」の声に応えたい
金太郎を始める前からラーメン屋を営み、飲食業に身を置いてきた佐久間さん夫婦。高齢になり、近いうちにお店を閉めようかと常連客に相談したこともあったそうですが、周囲からは「もうちょっと頑張ってほしい」との声をもらい、自分たちのお店が愛されていると改めて感じたのだそうです。
「今の場所へ移転する際、友人たちからは「中心地から離れているあの場所で商売をしても、潰れるぞ」と反対されました。でも、地域密着型にこだわってきたからこそ、口コミで評判が広がって、今では町外や県外からのお客さんも来てくれるようになりました」と、佐久間さん。
周囲の声に応えたい気持ちはあるものの、後継者がいないためお店の継続は半ば諦めていたところ、町役場が事業承継に力を入れていることを耳にし、相談して後継者を探すことになりました。
後継者に求める資質は、人見知りをせず、明るく社交的で田舎暮らしを楽しめること。
佐久間さん夫妻も飲食業界は未経験でスタートしたので、飲食業経験は問いませんが、社会人経験や飲食店での業務経験があることが好ましいです。最長3年間の任期期間中に、一生懸命粘り強く取り組む姿勢を持って、金太郎の味や、佐久間さん夫妻の人柄も受け継いでいただきたいです。
金太郎を運営されている佐久間さん夫妻の想い等を綴ったnoteはこちら
町役場が金太郎の後継者を募集する理由
大崎町の抱える課題として大きなウエイトを占めているのが事業承継。
コロナの影響や後継者不在で閉店を選択される商工業者さんがここ数年で増えてきているといいます。そういった面を少しでもサポートしていきたい気持ちから、地域おこし協力隊の任期中に承継の準備をすすめることで、後継者不在の事業者さんと移住して後継者になる方の不安を軽減できるのではと考え、制度を導入することにしました。
金太郎の後継者に求める人物像は、やる気と思いやりがあり、地域やお客さん、取引先等とのご縁を大切にするひと。
そして、「金太郎」が提供するトンカツや唐揚げの味にとどまらず、長年佐久間さん夫妻が紡いできたお客さんや地域の住民との関係性まで引き継いでいただくため、まちぐるみでサポートします。
まずは佐久間さんと一緒に働きながら調理技術を学び、金太郎の味を承継していただきます。3年の任期終了後に金太郎の建物で営業を継続するか、のれん分けをして町内に新しくお店を構えるかは、佐久間さんと町役場の担当者と相談しながら決めていく予定です。
数年後のバトンタッチが円滑に進むよう、佐久間さん夫妻がこれまで手が回らなかったSNSを通した情報発信や、夜の営業にも取り組んでほしいと話します。
事業承継する上で必要な制度や、資金調達に関する情報は商工会や金融機関も一体となって紹介できる体制も整っているとのこと。大崎町企画調整課のおふたりが「大崎町を盛り立てる仲間として、一緒に楽しく歩んでいきたい」とにこやかに話されていたのが印象的でした。
吉原さんと児玉さんの想いを綴ったnoteはこちら
12月27日には、大崎町の地域おこし協力隊をサポートする「地域おこし協力隊サポーターズ鹿児島」のyoutubeチャンネルで募集説明会の動画配信を行いました。オーナーの佐久間さん、大崎町役場の吉原さん、地域おこし協力隊サポーターズ鹿児島の吉村さんによる対談形式でお話を聞くことができます。