地域に根ざして約40年。岡山市内の市場へ出荷
岡山県北に位置する美作市梶並地区。この地に1951年に生まれ、約40年間カーネーション農家を営む岸本芳人さんは、奥さんとスタッフ1名の3名で、年間約10万本のカーネーションをハウス栽培し、主に岡山市内の市場に出荷しています。
年齢と体調のことを考え、あと数年での引退を考えている岸本さんは、40年間研究を重ねたカーネーションの栽培技術を学び、集落の一員として事業を引き継いでくれる方を探しています。
「カーネーションは、花屋さんが取り扱う量がバラや菊に並びトップ3なんです。花屋さんに行けば必ず置いてある、そんな存在なんです」
40年前、カーネーションは収穫して3日も経つと鮮度が落ちてしまう、とても繊細な花でした。そのため岡山県内に新鮮なカーネーションを届けるためには県内での生産が求められ、岸本さんの存在は必要不可欠でした。
「中学生の頃から生き物を相手にした仕事をしたいと思っていたんです」と話す岸本さん。
民間企業で3年間勤務した後、大学に進学し農学科を専攻。林業を学んでいましたが、他県の花卉(かき)農家での体験を経て、興味は花へ向いていきました。
卒業後、地元の梶並地区で花卉農家を営むために土地探しを始めました。しかし、1980年代前半は農業を営む人が多く、土地探しは苦戦。それでも妥協することなくカーネーション栽培に適した土地を吟味し、今の土地を見つけたのだそうです。
「梶並地区は、西の方に向かう北東の風が谷を通り抜けますが、その中でも風があたりにくい土地を探し、借りることができました」
自然環境の変化に対応する
母の日の代名詞とも言えるカーネーション。赤やピンクが主流かと思いきや、オレンジや黄色、グリーン、紫など12種類を栽培しています。
時代は変われど、贈り物としても観賞用としても変わらない需要のある花。一方で、カーネーションを取り巻く環境は変化しつつあります。
「私が子どもの頃は、この地域はお盆を過ぎると布団をかけないと寒いくらい冷涼な気候でした。そのため夏の暑さに弱いカーネーションの栽培に適した土地だったんです。けれど、ここ10年くらいは気温が上昇している影響で、夏を越すことが大変になってきているんです」
そこで、元気に夏を越すカーネーションを育てるため、気温に合わせて肥料の濃度を調整したり、夏場に強い品種を選んだりと、さまざまな栽培方法にチャレンジしているのだそうです。
「高校時代に化学を専攻していたこともあり、いろいろと試すのが好きなんです。幅を広げるために一緒に取り組んでくれる方に来ていただけると嬉しいです」
時代に合わせた花卉農家の形を模索
気候条件が年々変化することを受けて、新しい栽培方法を模索している岸本さんですが、「カーネーションに代わる花を栽培することも考える必要がある」といいます。
これまでも、カーネーションが少ない時期に、ひまわりやバラ、菊など、他の種類の花の栽培にも挑戦してきました。いまは体力的に難しくなっているためカーネーションに絞っていますが、いろいろな花をマルチに栽培することで可能性が広がりそうです。
「売り方も考えていかなければいけません。かつては単一品種を大量生産し、大量消費する時代でしたが、いまはネット販売が増えたことで少量多品種が求められるので、生産と販売をセットでできると強みになると思います。今後はインターネットを活用した販売方法を研究していきたいと思っています」
現在は、カーネーションの市場価格は平均40円前後ですが、カーネーションの栽培とBtoCでの販売が、承継後の成功の鍵になりそうです。ひとりで全てをこなすのは難しいため、ご夫婦やパートナーと引き継ぐのが理想的かもしれません。
いまの働き方を見つめ直し、自然に囲まれた地域で受け継がれてきた生業を仕事にしたいと思っている方は、岸本さんのもとでカーネーション栽培を学んでみませんか?