
創業100年まであと少し
ざらめを火にかけ、目が染みるほどの煙の中でじっくりとカラメル状に仕上げていきます。これを皮に練り込んで完成するのが、吉田屋菓子店の蒸しまんじゅう「かっぱまんじゅう」です。
宮城県色麻町でただ一人、この菓子を作り続けているのが吉田屋菓子店三代目の吉田るり子さん。1931年創業、まもなく100年を迎える老舗の菓子店です。

現在、パートやアルバイトは雇わず、菓子作りから販売まで、吉田さん一人で可能な範囲内で行っており、年間の売り上げは約200万円ほど。店舗での販売は20年ほど前から行わなくなり、近隣の直売所や温泉施設の売店への卸売り、地域のイベントへの出店が中心です。
「この味と、吉田屋っていう名前だけ残していきたい。その想いでやってきました」
仙台から嫁いできて30年以上。菓子づくりの経験はありませんでしたが、職人さんたちに手取り足取り教わりながら、味と屋号を守り続けてきました。あと数年で訪れる創業100年という節目までは、吉田さん自身も働きたいという想いがありますが、後世にこの味を残していくために、今のうちから次の世代に引き継いでいきたいと考えるようになりました。
「燻し蜜」という珍しい製法
吉田屋の「かっぱまんじゅう」が他とひと味違うのは、皮の作り方にあります。
黒砂糖を使わない、「燻し蜜」と呼ばれる独特な手法を用います。ざらめをじっくりと焦がし、カラメル状になったところへ砂糖と水を加え、絶妙な濃度の蜜をつくります。そこへ重曹や味噌、小麦粉を加えて練り上げることで、ほんのり香ばしく、しっとりとした皮が生まれます。
「普通は黒砂糖で作るんですが、吉田屋の作り方は本当に珍しいみたいです」
製造機械を納品に来たメーカーの支店長も、この製法を見て驚いたといいます。日本国内でも非常に珍しい作り方なのだそう。燻す工程では煙がもうもうと立ちこめるため、「目を開けていられない。それが一番しんどい」と吉田さんは笑いながら話します。



茶褐色に仕上がったまんじゅうは、かつてその見た目から「チョコまん」と呼ばれていました。色麻町がかっぱの里として知られることから「かっぱまんじゅう」に改名したのは、初代のおじいさんの時代のこと。以来、地域の名物まんじゅうとして何十年も愛されてきました。
お客さんに叱咤激励されながら守ってきた味
吉田屋菓子店は1931年、吉田さんの義祖父にあたる初代が創業しました。90年以上続く吉田屋菓子店。その歴史は、決して順調なものではありませんでした。「うちの家系は男の人が早く亡くなりまして」と吉田さんは振り返ります。1代目は40代、2代目も59歳で亡くなりました。そのたびに、おばあさんが、次にお母さんが、そして現在は吉田さん(るり子さん)が、それぞれ店を引き受けてきました。
吉田さんは仙台から嫁いできましたが、もともとは観光バスのガイドをしていました。しかし、吉田屋菓子店の店舗をリニューアルしようと準備を進めていた矢先に夫が体調を崩し、介護をしながら店を守る日々が続きました。素人からのスタートで、職人さんたちに「これはこうしようね」と手取り足取り教わりながら腕を磨いてきました。

長年親しまれてきた味を引き継いだとき、お客さんからは「先代と味が違う」と言われることもあったといいます。笑いながらの言葉でも、心に刺さることもあったと話す吉田さん。それでも「これはお客さんが叱咤激励してくれているんだ」と受け止め、腕を磨き続けてきました。90年以上の歴史が積み上げてきた味への期待の大きさが、そこには表れています。
現在、吉田さんは1人で製造から販売まで手がけています。近隣への卸売りと各地のイベント出店が主な販路で、季節によってはおはぎや草餅、色麻町の名産であるえごまを使ったゆべし、外郎(ういろう)なども手がけます。お正月前には数種類の豆を混ぜた鏡餅を作り、毎年楽しみにしているリピーターへ届けます。色麻町の大きなお祭り「シャクヤクまつり」には10日間連続で出店し、1年で最も売上が集中する大切な稼ぎ時です。
設備と加工場を譲ります
「あと数年で創業100年。それまで私も携わりたい」と吉田さんは言います。次の人とともに菓子を作り続け、創業100年を節目に事業を譲り渡したいというのが、吉田さんの描くかたちです。
後継者が受け取れるのは、レシピだけではありません。
製造に使う機材も一式お渡しします。中心となるのは、包あん器です。均一に生地とあんこを包む機械で、当時400万円ほどかけて導入したものです。かつては職人が手で丸めていましたが、職人が高齢になり、一人でも安定した品質を保てるようにと導入しました。冷蔵庫・冷凍庫、蒸し器、羊羹用の木枠など昭和初期から使われている道具類もそのまま引き継ぐことができます。

製造場所となるのは、母屋に隣接したプレハブの加工場です。現在は吉田さんが保健所の許可を取得して使用していますが、後継者が独立した事業者として使う際には、改めて保健所への確認や手続きが必要になる場合があります。なお、プレハブ内にトイレを設置するスペースがなく、現在は母屋のトイレを使用しています。貸し出しか譲渡か、費用の負担などは、応募者と相談しながら決めていきたいという意向です。
住居と併用している母屋の1階には、かつて店舗として使っていたスペースがあります。約20年前に夫が体調を崩して以降は使用しておらず、現在は空きスペースとなっています。ガスと水道は使えますが、トイレや空調設備がないため、店舗として営業を再開するには設備の整備が必要になります。店舗で販売までしたいという方には、1階部分の賃貸等についても相談に応じると吉田さんは言います。

また、定期的に取引している直売所や温泉施設の売店など3件の取引先についても、後継者に引き継ぐ形で紹介する予定です。
未経験でも可。求めるのはフレンドリーな方
吉田さん自身が素人から始めた経緯もあり、製菓の経験がなくても大丈夫だと言います。
「今はそんなに技術の習得に時間はかからないです。包あん器もあるし、シロップを作るのに慣れれば、半年もかからないと思います」
技術的な経験よりも、吉田さんが求めているのは人柄です。イベントで顔なじみのお客さんと言葉を交わし、卸先の担当者と笑顔でやり取りをする。それがこの仕事の醍醐味だと、吉田さんは長年の経験から知っています。長く続けていくためにも、フレンドリーさは重要です。
味と吉田屋菓子店の名前を後世に残してもらうことが第一だと話す吉田さん。約100年の歴史を大切に繋いでくれる方からの応募をお待ちしています。


