宮崎県の南部に位置し、美しい海岸線や山々が特徴である宮崎県日南市。市内中心部から車で約15分ほど南下したところに、大堂津地区と呼ばれるエリアが広がります。太陽がキラキラと光る雄大な太平洋など風光明媚な景観が多く、海水浴やサーフィンなどのマリンスポーツ、ハイキングやキャンプなど、アウトドアを満喫する観光客でにぎわっています。
そんなエリアにある「崎村商店」の正確な創業年はわかりませんが、現店主の吉田容子さんが、幼少の頃から地域の日用雑貨店として親しまれてきたものの、約10年前に廃業。その後、2019年に、吉田さんがお弁当とお惣菜を販売するお店として、「崎村商店」の屋号を継ぎ、創業しました。吉田さんは、地域の食材を使った心温まる料理を提供し、創業時とは違う形で、地域の笑顔をつないでいます。
今回は、「崎村商店」を承継し、吉田さんが食を通じて笑顔をつないできた事業を継いでくれるひとを募集します。
かつて地域の暮らしを支え続けてきた日用品店「崎村商店」
吉田さんはかつて、20年間に渡り託児所を営んでいました。「いそがしいお母さんたちにとって少しでも助けになれたら」と、託児所の玄関先で知り合いの農家さんの作った野菜を販売。お母さんたちから「おいしい」と人気が出たことをきっかけに、両親の代まで営んでいた日用雑貨店「崎村商店」の店舗兼住宅と屋号を承継して、事業をスタートさせました。
「私が物心ついたときには祖父母がキビキビと働いていましたので、『崎村商店』自体は70年以上の歴史があります。お盆にお墓参りで立ち寄ってくださった高齢のお客様が『帆掛船の時代に漁をしていたご先祖様は、崎村商店さんにお世話になったみたいなのよ』とお話ししてくれたことを踏まえると、創業は曽祖母の代からかもしれません」
かつての日用雑貨店「崎村商店」は、生活道具の他、地域住民のリクエストがあればなんでもそろえる、いわば”町のデパート”のような存在でした。吉田さんの祖父母が営んでいた当時はリヤカーでの行商が盛んで、山沿いに住む人たちは野菜などの農作物を積んで海へ、海沿いに住む人たちは魚介を積んで山へと商いに出向いていました。山と海のちょうど中間地点にある「崎村商店」には、多くの人たちでにぎわい、売上利益でさまざまなものを購入していったそうです。
「桃の節句には雛人形、お盆の時期には仏花やお供えのお菓子、クリスマスにはクリスマスケーキを売っていました。洋服の販売もしていましたね。お客さんにとってなくてはならないお店だったようです」
お嫁に行くまでのあいだ、「崎村商店」を構えた自宅で育った吉田さん。両親が廃業してから約10年、今は店舗兼住宅をひとりで守りながら、店舗部分で3人のスタッフとともにお弁当とお惣菜のお店を切り盛りしています。
地産地消の手作りお弁当で、地域住民の「食」を支える
「崎村商店」のメイン事業となるのは、お弁当の製造と配達。お弁当は吉田さんと3人のスタッフが手作りで製造しています。材料は主に日南市で採れた食材を使用し、地産地消を心掛けているのだそうです。献立は、主婦である4人がアイデアをたくさん出し合って決めています。こだわりは、スーパーマーケットには置いていないようなおかずを作ること。最近では、里芋団子のあんかけやたけのこの肉巻き、たけのこの佃煮が好評だったそうです。
弁当準備で大忙しのキッチンの様子。息を合わせ、工夫しながら作業を進めます。吉田さんの週間スケジュールとして、月曜日と火曜日に定期注文のみのお弁当配達、水曜日から金曜日の3日間はスタッフ3名と一緒に仕込みとお弁当の製造をし、店頭販売と道の駅への納品をします。お弁当の配達エリアは、大堂津、油津、吾田(あがた)、飫肥(おび)の、日南市の主要4地区。高齢者の健康体操教室などから事前に指定個数の注文を受けて、定期配達をすることもあります。
なかでもいちばん求められているのが、ひとり暮らしをする高齢者への配達。現在は毎週木曜日に、お弁当とお惣菜、野菜のセットを7〜8軒のお宅に届けています。訪問時に不在のこともあり、ときには再配達の必要も。置き配をせずに手渡しを徹底するのは、食の安全面と衛生面への配慮から。遠く離れて住む利用者さんのご家族の意向で、”見守り”の意味を兼ねていることもあり、お顔を合わせることそのものが安心につながっているのだそうです。
カフェは、”特別な時間”を楽しむ場所
「崎村商店」では、毎月第2土曜日のみカフェを営業しています。カフェスペースとして使用するのは、和室と広々とした庭。70坪ほどある広い建物スペースを有効活用し、現在はテーブル6卓を設置、最大20人まで利用可能です。
同地域には、徒歩圏内におしゃべりをしながら気軽に食事を楽しむような飲食店がありません。吉田さんは、地域住民が気軽に集うコミュニケーションの場になってほしいと力を込めて話します。
実際に、近隣に住む70〜90代の女性グループが、食事とおしゃべりを楽しみに利用しているとのこと。「ここに来るときはみなさん、おしゃれな洋服を着て、きれいにメイクをしてこられるんですよ」と目を細めます。他には福祉協議会などの食事を兼ねた打ち合わせの場として活用されたりと、月に一度の営業日を心待ちにしているお客さんも多いのだそう。
現在提供するのは、月替わりランチ(1,000円)のみ。内容は、主菜、小鉢3品、ごはん、汁物、デザート、コーヒーと、見た目にも満たされるメニューです。
68歳になる吉田さんは母親の介護と両立しながら、無理のない範囲内で事業を続けています。しかし、体力面の低下や運転の安全面を考慮し、お弁当とお惣菜の製造・販売とカフェ事業を続けてくれるひとを募集することに決めました。
「ほんとうはもっとお弁当の注文も受けたいし、配達するお宅も増やしたいんです。継いでくれるひとが、地域の困っているお客さんのために事業を拡大してくれるとうれしいですね。カフェの営業日も増やせれば、もっと喜んでもらえると思います」
どんなひとに継いでもらいたいかを伺うと、“人とコミュニケーションをとるのが大好きな明るいひと”とのこと。現在お弁当を受注している既存のお客さんとの顔つなぎはもちろん、引き続き製造スタッフに協力をお願いすることも可能です。叶うならば、70年以上に渡り地域に親しまれてきた「崎村商店」の屋号もいっしょに承継してもらいたいと考えています。
海と山に抱かれた自然豊かな日南の環境で、地域住民の食をサポートしたいひとの挑戦をお待ちしています。