北秋田市合川の中心部に建つ「山喜旅館」は、創業から65年間、ビジネスマンの出張拠点として、郷土料理のおいしい宴会場・仕出し屋として地域を支えてきた老舗旅館です。
秋田内陸線・合川駅から徒歩1分、大館能代空港から車で約10分と、交通の便に恵まれた同旅館では、現在の土地・建物・設備を活用して宿泊施設を経営する人を募集しています。
前身は、秋田名物「きりたんぽ」の店
山喜旅館の創業は1956年。現在のオーナーである佐藤キミさんの義母、キエさんが始めました。
キエさんは以前からこの地で、“きりたんぽ”の店を営んでいました。“きりたんぽ”は、すり潰したご飯を杉の棒につけて焼いた秋田県の名物です。キエさんの店では、夏は氷屋としてかき氷を販売し、秋から冬にかけて、新米で作った“きりたんぽ”を販売していたそうです。
料理が好きだったキエさんは、もっと本格的に料理を提供したいと考え、料亭を開く予定で店舗を建て始めました。しかし、紆余曲折の結果、計画を変更して旅館として創業することに。
15年目と20年目には大規模な増築を行い、6〜8畳の客室が9部屋、40畳ほどの大広間(宴会場)、食堂、大浴場、小浴場、洗面所、トイレなどの設備を持つ、延床面積約200坪の2階建ての旅館となりました。
宴会や仕出し、結婚披露宴も
料亭を開きたいと考えるほど料理が好きだったキエさんは、山喜旅館の創業後、宿泊だけでなく宴会や仕出しも積極的に行いました。23歳で嫁いできたキミさんは、義母のキエさんを手伝って働きながら料理の腕を磨き、女将としての姿勢を学びました。
宴会料理のメインは、自慢の「きりたんぽ鍋」。キミさんは、「昔、このあたりの“きりたんぽ”は小さめだったんですよ。発祥地と言われる大館や鹿角の“きりたんぽ”は大きくて、そこから離れるごとに小さくなっていったようです。『殿様が召し上がるのにちょうどいいサイズ(一口で食べられる)』ということから、『殿様きりたんぽ』とも呼ばれました」と、ご当地ならではの逸話を教えてくれました。
料理は和食が中心で、「きりたんぽ鍋」はもちろんのことながら、自家製の天つゆで提供する天ぷらもとても好評だったそうです。
最盛期には、招待客200人にもなる結婚式の仕出しを請け負ったこともあったと話すキミさん。住み込みの従業員2〜3人とキエさん、キミさんで、調理も宴会場も回さなければならず、「結婚式の日は、あまりの忙しさに1時間しか寝られなかった」と、懐かしそうに振り返ります。
部活動の合宿や、ビジネスマンの宿として利用されてきた
客室は、6畳〜8畳の和室が9部屋あります。1階に2部屋(6畳1室、8畳が1室)。2階には7部屋(6畳4室、7.5畳2室、8畳1室)。2度の増築を経て旅館全体が複雑な造りになっているため、客室同士が隣接しておらず、自然とパーソナルスペースが保たれているのも同旅館の特徴です。
大広間などを使うと大人数での宿泊も可能なため、高校の部活動の合宿やスポーツ大会に出場する選手の宿泊場所として重宝されてきました。1960年代に合川体育館でプロレスの大会が開催された際には、故ジャイアント馬場さんの休憩所になったこともあります。
秋田内陸線・合川駅に近いこともあり、ビジネスでの利用も多かったそうです。20年ほど前までは駅前に旅館が3軒、飲み屋も20軒以上並び、この辺りはとても栄えていました。
宿泊施設として活用してほしい
3年前、キミさんが閉業を決めた理由は、86歳という年齢と新型コロナウイルスでした。新型コロナウイルスの感染拡大の影響を受けて宿泊予約が激減し、また、高齢だったキミさん自身、感染症が怖く、たまに入る予約も断ることが多かったといいます。
「年齢による体の不調も多く、後継者もいなかったため、閉業を決めました。でも、建物はしっかりした造りで、まだまだ使うことができます。昔の八森町(現八峰町)から、とびの職人さんが来て建てた合掌造りなんですよ。雪にも強く、とても丈夫な建物です」とキミさんは話します。
この辺りは観光地ではなく、一昔前のようなにぎわいも減ってしまいましたが、駅にも空港にも近く交通の便には恵まれています。最近は、介護や縫製などの事業所で働く海外の人材もたくさん入ってきており、そのような人たち向けの宿泊または居住のためのニーズは増えつつあります。
山喜旅館は部屋数が多く、大人数の人が暮らすのにぴったりの施設です。1階には、オーナー一家の居室(居間、和室2間)のほか、倉庫やボイラー室、シャッター付きの車庫。敷地内には小さな畑が2つあります(5メートル×10メートル、10メートル×10メートル)。水回りのリフォームは必要ですが、建物自体はまだまだしっかりしています。
また、道路を挟んだ向かい側の駐車場には、2階建ての小屋(約50坪)もあり、旅館とセットで譲渡を予定しています。
水も空気もおいしい自然豊かな合川の地のかつてのにぎわいを知る旅館の灯りをもう一度ともしてみませんか。