川のほとりに建つまっしろな鶏舎
豊岡市加陽(かや)、兵庫県北部に伸びる円山川がもたらす雄大な自然美あふれる景色の中に、岡養鶏場があります。
ラムサール条約にも認定された環境保全エリアで、豊岡の代表的な農業地域である加陽の一角。小川のほとりに立つ真っ白な鶏舎からかすかに聞こえる鶏たちの声と、目の前に広がる豊かな水田と山並みという牧歌的な風景に時間を忘れてしまいそうです。
岡養鶏場は、岡隆志さんが奥様と岡さんのお兄さんで営んでいます。ここで産まれる卵たちは、「おかちゃんのたまご」という名前で市内各地で販売されています。
「おかちゃんのたまご」と名づけ、こだわりの飼育方法によって生まれる味わいでファンを増やし、今では豊岡市では知らない人はいないのではないかと思うほど、抜群の知名度で愛されています。親しみやすい名前につられて、オーナーの岡さんに「岡ちゃん」と声をかけてしまいそうです。
父から養鶏業を継いで41年目
「継ぐつもりのなかった家業でした」と話す岡さんは、お父さんが他界したため、25歳で養鶏場を継ぐことになりました。一般的に養鶏業は100万羽単位が主流だそうですが、岡養鶏場で飼育しているのは約2万羽と、規模が小さい分超地域密着型です。
販売を強化するため、市内の販売所や飲食店への卸だけでなく、1992年に卵専用の自動販売機での販売も開始しました。自動販売機は、養鶏場近くにある田畑に囲まれた地元野菜直売所に併設しており、鮮度維持のために冷蔵ケースで販売。豊岡市街地からのアクセスも良いことから、売れ行きも好調で、1日に2度補充しても完売してしまうこともあるそうです。
さらに、兵庫県北部の但馬地域で広域展開する菓子店では、こだわり素材として「おかちゃんのたまご」を使用している商品も多く、PRにも一役買っているそうです。
実際に「おかちゃんのたまご」を仕入れている飲食店の方にお話を聞くと、「白身はプリッとしてて黄身は味が濃く、色見も濃いからオムレツにするとお客様に驚かれます!」との感想をいただきました。
この味は、鶏たちに与える餌への工夫と、鶏たちが暮らす環境へのこだわりから生まれます。遺伝子組み換えの餌は使用せず、ミネラル豊富でバランスの良い安心安全の餌を与え、元気に卵を産んでくれます。
誰にでもできるわけではないからこそ、チャンスがある
今回、事業を譲る理由を伺いました。
「本当はもう、あと数年で商売をたたもうと思っていました。経営は大きくはありませんが順調です。しかし、40年以上続けてきて、自分も家族も年を取るのでこれ以上続けられない。まずは販売店への配送をやめて、徐々に鶏の数も減らしていこう」そう考えていたそうです。
豊岡をはじめ但馬地域で愛されるこだわり卵の養鶏場「岡養鶏場」から、みなさんの食卓に運ばれる「おかちゃんのたまご」。これからもおいしくいただくためには、岡さんの養鶏業を継いでくれる方が必要です。
引き継ぐ上での課題について、「日々のメンテナンスが欠かせないこと」「外部要因による影響を受けること」と岡さんは話します。鶏舎は35年以上使っているため、新しく設備を導入をする必要もあります。また、台風や雪など自然災害との共存や、円安による飼料の高騰、鳥インフルエンザの脅威にも向き合う必要があります。
しかし、岡さんは養鶏業のおもしろさについてこう話します。
「養鶏業を新しく始めようとすると、設備面や販路開拓などハードルも多く、誰にでもできる仕事ではありません。だからこそ、チャンスがあると思います」
先述の飲食店で、岡養鶏場さんの「おかちゃんのたまご」の魅力とこれからの事業縮小の話を偶然伺い、配達中の岡さんのお兄さんから直接お話を聞いて始まった、継業につながるかもしれないお話。
多くの地域住民に愛されてきた優しい味を次の世代につなげるため、自然豊かな豊岡の地で育まれてきた養鶏場と卵の味を受け継いでいただく方との出会いをお待ちしています。