
大阪から移住、神鍋高原の牧場跡地に建てたペンションで37年
兵庫県豊岡市の神鍋高原にある「ペンションてるてるぼーず」。現在のオーナーである野村さんご夫妻が営んで37年になる、客室数8室のペンションです。
事業を始めたのは、夫の征伸(まさのぶ)さん。元々大阪でご実家の家具製造会社で設計に携わっていましたが、20代の頃に大阪の飲み屋で神鍋のペンションを経営している方に知り合ったことをきっかけに、神鍋高原に足繁く訪れるようになりました。

「最初は冬にスキーをしに神鍋高原に来ていました。徐々に知り合いも増えていくなかで、ある時、新しくペンションができるという話を聞き、土日はそこで居候をしながら、朝晩はペンションの手伝い・昼間はスキーという生活が始まりました。安く遊べるし、仲間とわいわいして、ただただ楽しかったですね」
平日は大阪、土日は神鍋高原、という生活を5〜6年間続けていた野村さんでしたが、30代に差し掛かった頃、神鍋に移住して自ら「ペンションてるてるぼーず」をはじめるという人生の決断をします。
「神鍋の方から『ペンションをするなら土地を分けようか』と声をかけていただいて。元々牧場だった場所を村(太田地区)から購入して、1988年にペンションを開業しました」
以後37年間、地域の方にもお客様にも親しまれる場所として経営を続けてきましたが、ご夫妻ともに年齢的な理由から今後長く運営することが難しく、新しいオーナーを募集することになりました。
落ち着きのある空間と充実の設備
ペンションてるてるぼーずの客室数は、1階、2階合わせて全8室(2〜3人用洋室6室、4〜5人用和洋室2室)で、各部屋にはユニットバスを完備しています。
加えて、2階にはご夫妻が住んでいるお部屋もあり、引き渡し後は新しいオーナーの方が住むことや、改装して客室を増やすといったことも可能です。


また、広々とした食堂とプロ仕様の厨房設備があります。野村さんは「宿泊業はもちろん、企業の保養施設などとして使っていただくのも良いですね」と話しており、継ぎ手の方にはぜひこれらの設備も活かしていただければと思います。



また、建物には、現在はコンバーターの故障により稼働していませんが、太陽光発電設備も設置されています。その他ボイラー等の設備については、経年による劣化はあるものの、現在はすべて正常に稼働しています。
これらの設備等は現状のままでの引き渡しとなり、修理や撤去については新しいオーナーの方に委ねられます。
名物「塩鍋」と温かなおもてなし
ペンションてるてるぼーずの看板メニューは「塩鍋」。野村さんが開発したオリジナル料理で、こだわりの塩ベースの出汁に、鶏もも肉・豚バラ肉としゃきしゃきのレタスを合わせていただきます。あっさりかつ深い味わいが人気です。

「僕は鍋が好きなんですよ。安くて美味しくて、年中食べられる鍋を考えて作りました。お客様からは『家でもやってみます』とよく言われますね」
現在の宿泊料金は、この塩鍋付きで1万円を切る価格設定。リーズナブルな価格でお客様に喜ばれています。
塩鍋など名物料理のレシピは、ご希望があれば野村さんから教わることもできます。
地域との関わり方
「何より地域の方々との信頼関係が、この仕事を続けていく上で一番大切だと思います」
野村さんが大切にしてきたのは、地域とのつながりです。都会から来た移住者として、地域に受け入れてもらうために様々な努力を重ねてきました。
「最初は老人会から入ったんです。おじいちゃん、おばあちゃんの運転手をして顔を覚えてもらいました。」
また、地域の民宿・ペンションと連携した「カニ共和国」というコミュニティをつくり、カニ料理のコース開発や「カニ祭り」などのイベントを企画していたことも。

「オリエンテーリングをしながら畑で野菜を収穫してもらって、最後にカニを渡すイベントでした。準備は大変でしたが、15回も続けることができました」
現在も日高神鍋観光協会の専務理事を務めるなど、野村さんは、地域との関係性を重視しています。地域イベントへの参加や協会への加入等はあくまで任意にはなりますが、継ぎ手の方も地域との関わりを大切にしていただければと思います。
訪れる人たちの「思い出の場所」として
開業当初はバブル期でスキー客が中心でしたが、現在は家族連れやシニア層が主なお客様となっています。リピーターの方々とは長いお付き合いが多いとのこと。
「昔は団体のお客さんが多くて、ここで出会ってご結婚された方もいらっしゃいます。その方たちがお子さんを連れて来てくれて、今度はそのお子さんが結婚して、またお子さんを連れて来てくれる。3世代にわたって利用していただいています」

「『ここが思い出の場所なんです』と言われると、本当に嬉しいですね。それがこの仕事の一番のやりがいです」
ペンションてるてるぼーずは、敷地は500坪、建物も広々としていますが、現在は建設当時より建蔽率が下がっているため、同規模の建物への建て替えはできません。
譲渡後の運営方法や改装等について、野村さんは新しい方にお任せするというスタンスですが、訪れた人たちの思い出が詰まった建物を、ぜひ活用していただければと思います。
今後の意向と次の世代への期待
野村さん夫妻は、今シーズンいっぱいまでご自身で経営を続けたいという意向です。そのため新しいオーナーへの譲り渡しは、最短でも2026年4月以降となります。
また、これまでSNS等を使った集客に力を入れることができなかったと話す野村さん。
「体力が必要な仕事ですから、できれば若い方にお譲りしたいのですが、特に趣味がある人がいいですね。登山が好きとか、ハイキングが好きとか。そういう趣味をSNSなどで発信していけば、同じ趣味の方が集まってきますから」
自然を愛し、地域とのつながりを大切にしながら、様々な人たちに親しまれてきたペンションを新しい形で発展させてくれる方を心待ちにしています。