彫刻刀一本一本を丁寧に仕上げる匠雲堂
匠雲堂は日本有数の木彫刻のまち「富山県南砺市井波」にある『彫刻刀の専門店』です。
1975年の創業以来、美術大学や専門学校、一流の彫刻師の高度な要望に応えて彫刻刀や木彫り用具を取り扱ってきました。
アマチュアからプロフェッショナルまであらゆるお客様のオーダーに応えており、日本全国のみならず外国のアーティストからも注文が入ります。匠雲堂が扱う彫刻刀は1,000種類程度。一般の方向けの商品からプロの高度な要望にも答えるオーダーメイド品まで、職人の手で一本一本仕上げています。
日本一の木彫りのまち「井波」
2017年に日本遺産へ指定された「井波」は、日本一の木彫りのまちとして知られ、今もなお200名の彫刻師が活動しています。まちを歩くと、あちらこちらからノミをふるう音が聞こえ、彫刻師たちの手仕事を直に観賞することができます。
そもそも井波彫刻の始まりは250年前に遡ります。1774年、東本願寺の御用彫刻師である前川三四郎が井波の大工4名に彫刻を教えたことを機に、井波に専業の彫刻師たちが誕生していきました。
井波彫刻師たちは寺社彫刻を中心にその技術力を高めていき、お祭りで重宝される曳山彫刻や、家庭用の欄間、天神様などにその技術を応用して、一斉を風靡していきます。その後、彫刻師を志願する若者が全国から集まるようになりました。
井波彫刻のルーツでもあり、その技術の結晶とも言えるのが「瑞泉寺」です。特に山門の「雲水一匹龍」と勅使門の「獅子の子落とし」は必見。
井波彫刻師たちは創作活動に行き詰まると瑞泉寺に行き、これらの作品を見て原点へ帰るそうです。
日本から減少する鍛冶屋を引き継ぐ決意
「良い作品が発表されると、もしかしたら私の道具が役に立ったのかな、と嬉しい気持ちになります」
と語るのは、今回後継者を募集する匠雲堂の岡田榮吉さんです。
28歳で独立して以来、実直に質の高い仕事を貫き、約半世紀にわたり匠雲堂の信頼を築いてきました。岡田さんが手掛ける彫刻刀の種類は1,000種類程度。彫刻刀は大きさによって2分で研ぎ終わるものもあれば、2~3時間かかる大きなものまで様々です。
研ぎには集中力が求められ、余分な力が入っていると刃物が傾いて研げてしまったり、三角刀の場合は左右の形があわなくなったりしてしまいます。一流の研ぎ職人としての技術を習得するまでには一定の修行が必要となります。
「研ぎ職人は彫刻師たちを支える裏方の仕事です。決して目立つことはありませんが、黒子に徹してコツコツと仕事を進めることに喜びを感じる方に向いている仕事でしょう」と岡田さん。
また現在、全国の彫刻刀専門店が相次いで廃業を迎えており、それに付随して刃物を扱う鍛冶屋も減少しています。匠雲堂が彫刻刀の刃を仕入れている埼玉県の鍛冶屋もまた後継者不足に悩んでおり、匠雲堂へ鍛冶屋の技術を100%提供したいと申し出がありました。
そこで、岡田さんは日本に必要な技術を未来へつなげていくために匠雲堂で鍛冶事業を開始することを決意されました。後継者の方には金属を生成する鍛冶屋の仕事を覚えてもらい、最終的には自社での一貫生産を目指していきます。
さらに、それだけにはとどまりません。
アニメ「鬼滅の刃」の影響もあり、昨今では「鍛冶屋」に興味を持つ若者が増えてきました。岡田さんはこの鍛冶場を観光客に見てもらいたいと考えており、井波に新たな観光産業を生みだし、今までとは異なる層の人の流れを作っていきたいと目標を掲げています。
現在、社内に設置する機材の搬入は済んでおり、もうじき鍛冶事業をスタートできるというタイミングです。観光向けの鍛冶場については地域の方や不動産屋さんと連携をして適切な物件を探しているところです。
お客様のためにも絶対に廃業できない
このようにチャレンジを続ける岡田さんですが、やはり後継者が決まっていないことでふと不安な気持ちに陥ることもあると言います。
彫刻師をはじめとする作家の皆さん、そして美術・工芸関連の学校関係者などの主要取引先の皆さんに、匠雲堂は大いに必要とされています。
突然「廃業しました」という無責任なことはしたくないという岡田さんは、一日でも早く後継者候補を決めたいと願っています。埼玉県の鍛冶屋を引き受けた想いもあります。日本の鍛冶技術を未来へつないでいく、という志のためにも、岡田さんの隣に立つ後継者候補の存在は必要不可欠となります。
2023年4月、一人目の候補者が匠雲堂へやってきましたが、候補者の諸事情により事業の承継には至りませんでした。しかし、そのことに落ち込んでいる暇はありません。今回は二度目の募集となりますが、鍛冶事業開始に伴い2名の候補者を募りたいと岡田さんは意気込んでいます。
日本有数の木彫りのまちで、彫刻師や作家のみなさんをサポートしたいという方、また鍛冶事業に興味のあるという方、そして日本の伝統技術を未来へつなぐお手伝いがしたいという方のご応募を心からお待ちしています。
最後に岡田さんからメッセージをいただきました!
「これから鍛冶事業をスタートするにあたり仕事量は増えるばかりです。ぜひ意欲と意志のある方にご応募をいただきたいです。採用後は適材適所で後継者を決めていきたいと考えています。技術や事業のことについては丁寧に教えますし、自発的な活動については全力で応援をします!ずっと右肩上がりに成長し続けることができる仕事ですので、現状に満足しない、成長意欲のある方と一緒に事業のビジョンを描いていきたいです!」