
津南町の静かな一角に佇む「ヘアーサロン はら」昭和32年から続くこの理容室は、地域の方々の髪を整えてきました。現在、店主の中村まつえさんは理容室を引き継いでくれる方を探しています。
後継者を探そうと決めたのは、「去年の6月に母が具合を悪くしたことがきっかけでした」とまつえさんは話します。その時、夫からは「もう辞めるべきではないか」と言われたそうです。
「でも、急に母が具合悪くなったから辞めますと言ったら、地域の方々も困るんじゃないかと思ったんです。もう少し間を置いて、皆さんにきちんとお知らせする時間が必要だと感じました」
本来なら去年いっぱいで辞めることも考えていたというまつえさんですが、地域の方々への配慮から、今年まで延長して営業を続けています。「せめてもう1年の間に皆さんにお知らせをして、みんなに行き渡るようにしてから辞めたい」という思いが、今の決断につながりました。
母から娘へ、受け継がれてきた美容の技
「ヘアーサロン はら」は、まつえさんの母が昭和32年に創業しました。当時の美容師の道は厳しいものでした。「母の時代は本当に大変だったんです。修行時代は住み込みで、仕事だけでなく、家事から何から全部していたそうです。当時は休みもままならなかった」とまつえさんは母親の苦労を語ります。
そんな厳しい時代を経て開業した母の理容室。まつえさんは高校2年生から通信教育で美容を学び始め、卒業後は町外の理容室で5年間の修業を積みました。「最初から実家に入るのではなく、違うところで経験を積むことが大切だと思っていました」
実家に戻った後も、母とは違う感性や技術で理容室に新しい風を吹き込みました。「母の時代と私の時代は考え方も技術も違います。でも母は私の新しいやり方を尊重し、むしろ優先してくれました」とまつえさんは感謝の思いを話してくれました。
家族経営が育んできた温かさ

「仕事をして良かったと思うのは、母と一緒にできたこと。常に一緒にいられましたし、共通の話題も多く、悩みも共有できました」と、まつえさんは家族経営の何よりの喜びを感じていたそうです。
もちろん、意見の相違や言い合いもあったといいます。しかし、お互いを尊重する姿勢が、37年間の共働きを支えました。「母は本当に我慢強い人でした。苦労人だからこそ、人の気持ちがわかるんです」とまつえさんは母の人柄を慈しむように語ります。
数年前、母親が体調のことも考えて店から少しずつ離れ始めた時、まつえさんは寂しさを感じていました。「もう少し一緒にできるかなと思っていたので、寂しい気持ちになりましたね」それでも、ずっと二人で築いてきた店への愛情は変わりません。
地域と共に歩む理容室の日常

朝9時に店を開け、夕方6時に閉める「ヘアーサロン はら」。「普通の理容室は8時開店ですが、私は体に合わせて9時にしています。お客様も年配の方が多いので、この時間がちょうどいいんです」と、まつえさんは地域の生活リズムに寄り添った営業スタイルを大切にしています。
カット、カラー、パーマなど基本的なメニューを提供し、最近ではお年寄りのために出張サービスも行っています。「動けなくなった方のために、予約がない時間を使って訪問しています。これからはそういうサービスがもっと求められるでしょうね」と、まつえさんは地域のニーズを敏感に感じ取っています。
津南町の集落内外から幅広い年齢層のお客様が訪れます。「不思議なことに、集落外からも来てくださる方がいるんです」と嬉しそうに話すまつえさん。長年培った技術と温かい人柄が、多くの人を引き寄せているのでしょう。

「本当は売りたくないんです」とまつえさんは正直な思いを吐露します。「ここに生まれてからずっとここにいて、愛着がすごくあります。家族5人で暮らした思い出もあるし、この場所への思いは言葉では表せません」
しかし、雪深い津南町での一人暮らしと理容室の維持は、年々厳しさを増しています。「今年の雪を見たら、もう限界だと感じました。雪かきも大変ですし、体力的にも正直きついです」と、まつえさんは現実を見つめています。
それでも、理容室を単に手放すのではなく、この地域と理容室の価値を理解してくれる方に引き継いでほしいという思いが強くあります。「お客様のためにも、引き継いでくれる方と一緒に働く期間を設けて、スムーズな移行ができればと考えています」
雪国の職住一体の空間

「ヘアーサロン はら」の建物は、1階が理容室、2階が住居になっています。2階には広々とした台所、お風呂、トイレに加え、8畳を含む4つの部屋があり、家族や友人同士での生活にも十分な広さです。車庫も完備されており、雪国生活には欠かせない落下式の屋根を採用。約5年前に塗り直されており、建物の状態も良好です。
「ここは単なる仕事場ではなく、生活の場でもあるんです。だからこそ、次に引き継いでくれる方には大切にしてほしい」というまつえさんの言葉には、この場所への深い愛情が感じられます。
「今は売上が以前より落ちていますが、出張サービスなど新しい取り組みで伸びる可能性は十分あります」とまつえさんは前向きに話します。団塊の世代が70代後半になりつつある今、地域密着型の美容サービスの需要は今後さらに高まるのではないかと思います。
「私が頑張ってきたように、次の方も自分らしさを大切にしながら、この理容室を育ててほしい」まつえさんの言葉には、単なる事業承継ではなく、お店の歴史と魂を受け継いでほしいという願いが込められています。
長年培ってきた地域との信頼関係と、親子2代にわたる家族の歴史が息づく「ヘアーサロン はら」この理容室の新たな章を、あなたの手で紡いでみませんか?
美容師・理容師免許をお持ちの方で、津南町での穏やかな暮らしと、地域に寄り添う仕事に魅力を感じる方をお待ちしています。