秋田県を代表する名物郷土料理「いぶりがっこ」は、「がっこ(漬物)」を燻してつくられるたくあん漬けのこと。秋田県の山間地では降雪の時期が早く、大根を屋外で干す時間が十分に取れなかったため、室内に吊るし、囲炉裏火の煙で干したことが発祥と言われています。
そんな雪深い地域・秋田県の北部にある北秋田市に、郷土料理「いぶりがっこ」とたけのこを掛け合わせた「いぶりたけのこ」をはじめ、秋田県産の食材を使った調理済の加工品を多く生産する会社があります。
お客様の「ほしい」を叶える加工技術
石井正司さんが創業し、代表を務めるマルイシ食品は、「自然がごちそう」をキャッチフレーズに、創業から45年、少人数ならではの柔軟性で、お客様からのニーズを汲み取った商品開発や委託加工を手掛けてきました。
山形県出身の石井さんは、高校卒業後は缶詰め・ビン詰めを手掛ける食品研究所で学び、29歳の頃に秋田県内の会社に赴任したのち、北秋田市で自身の会社を創業しました。創業当初は近所の方たちが収穫した野菜や果物を長期保存するために、缶詰め・ビン詰め加工する対応から始まったそうです。その後、惣菜製造業や仕出営業の許可も取得し、幅広く食材製造を展開。最盛期は30以上の商品数を作り、年商3億円に達していたといいます。
「お客様からの要望があれば、商品開発から一緒に取り組みました。やる前からできないと判断せずに、まずやってみる。やると判断してから10日後には試作品ができることが私の強みです」と話す石井さん。ここ数年は体調を崩し一線を退いているものの、現在も自宅で食材を掛け合わせて新商品の開発に勤しんでいる、研究熱心な方です。
代表商品の「いぶりたけのこ」について、秋田の郷土料理の「いぶりがっこ」と「たけのこ」を組み合わせることになった経緯について伺うと、
「秋田県ではいぶりがっこを代表とする”燻り文化”が定着しているんですね。そして東北では姫竹という細長いたけのこが採れるので、それを合わせてみたんです。しかし姫竹は細くて商品にはならなかった。それで最終的には一般的に馴染み深い孟宗竹で商品化をすることになったんです」
と開発秘話を教えてくれました。商品化をして約15年、いまではマルイシ食品の看板商品に。「いぶりたけのこ」のほか、いぶりたけのこを使った「炊き込みご飯の素」も開発し、主にお土産店や道の駅で販売しているそうです。
食文化のニーズに対応した商品開発が重要
特色ある商材を生産している一方で、食品加工業の課題は「時代のニーズに合わせた販路拡大ができるかどうか」だと話す石井さん。
「現在の売上は最盛期の2割にも満たない状況です。創業から45年の間に、食文化はファストフードの台頭による『外食』や、スーパーやコンビニで短時間で調理できる『中食』など、多様に変化してきました。こうした時代のニーズを察知して、商品をつくり、販路を拡大できるかが大切だと思います」
食品加工への飽くなき探究心を持ち続けているものの、体調の面から復帰は難しく、承継を考えることとなった石井さん。機材も揃ってはいるものの、すぐに営業開始をするためには、できれば同業者に継いでもらうことが望ましいです。しかし未経験でも、石井さんの右腕として10年以上一緒に働く娘さんや従業員も引き継いでもらえれば、承継後すぐに生産できる体制だと話します。
「承継後にぜひ力を入れてもらいたい」と石井さんが話すのは、ネットでの販売強化。現在、オンラインショップを開設しているものの手が回らず十分な販促ができていない状況のため、商品のパッケージを刷新したり、ネットでの直販事業に注力すれば、まだ知られていない商品の魅力を発信できる余白はありそうです。
人の身体に入るからこそ責任重大な食品加工業。お客様に真摯に対応してきたからこそ、クレームはほとんどなかったのだそう。需要は変われど私たちの生活と切り離せない「食事」を通して、楽しさと美味しさを届ける食品加工業にチャレンジしてみませんか?