
福島県喜多方市の山間部、標高500メートルの自然豊かな宮古地区。ここに、30年以上にわたって地域の食文化を支え続けてきた蕎麦店「懐石そば かわまえ」があります。店主の関口さんご夫妻が、長年守り抜いてきたこの店の承継者を探しています。
会津の奥座敷で受け継がれる十割そば
宮古地区は会津の奥地に位置する寒冷地で、米の栽培には適さない土地でした。しかし、朝晩の寒暖差が大きく、良質な水に恵まれたこの地では、古くから美味しいそばが育てられてきました。

「どこの家でもそばは作っていて、冠婚葬祭にはそばを振る舞うのが当たり前でした」と関口さんは振り返ります。この地域では、嫁いだ女性は必ずそば打ちを覚えるという文化があり、「そばが打てないと嫁に来られない」とまで言われていたほどです。
昭和の終わり頃、地域に「宮古そば保存会」が設立され、この伝統的な食文化を守る取り組みが始まりました。宮古そばの特徴は、つなぎを一切使わない十割そば。そば粉と水だけで打つ、まさに職人技が光る逸品です。
かわまえの歩み。ブームから現在まで

関口さんの母親が個人的にそばを振る舞い始めたのがお店の始まりでした。最初は知り合いに5人、10人と提供していましたが、口コミで評判が広まり、やがて50人、100人と客足が増加。その人気ぶりに目をつけたメディアが取り上げ、旅行会社がツアーを組むほどの人気店となりました。
「当時は30軒の集落のうち、13軒がそば屋を始めたんです。まさにそばブームでした」と関口さん。最盛期には年商8,000万円を記録し、40人の収容人数を誇る店内は連日満席状態でした。
しかし、時代の変化とともに状況は一変します。東日本大震災や高齢化、さらにコロナ禍の影響により、かつて13軒あったそば屋は現在3軒まで減少。関口さんご夫妻も高齢となり、現在は1日30人限定での営業を続けています。
受け継がれる味と技

現在78歳の関口さんは、30年近くそば打ちを続けていますが、「未だに納得のいく仕上がりにならない日もある」と話します。湿度や気温、そば粉の水分量によって微妙に変化するそば打ちは、まさに職人の感覚がものを言う世界です。


店では宮古そばと併せて、関口さんの奥様が手作りする郷土料理も提供しています。特に「刺身こんにゃく」は地方発送の注文も多く、有名百貨店のバイヤーからも声がかかったほどの人気商品です。
かわまえの店舗を託したい
「味の伝承は簡単ではありません。3年修行してもできるかどうか」と関口さん。そのため、既にそば屋での経験がある方、または古民家カフェや研修施設など、建物を有効活用してくださる方を歓迎したいと話します。


店舗は国道沿いに位置し、延べ床面積100坪以上の木造2階建て。現在は1階部分を店舗として使用し、2階は使用していません。
店舗には製粉機をはじめとする厨房機器、冷蔵庫6台、食洗機など、新規で揃えると2,000〜3,000万円相当の設備が整っています。また、以前は民宿も経営していたため、20組分の布団も備品として残されています。
駐車場は店舗裏に20台分、国道を挟んだ向かい側にも土蔵と製粉所、駐車場があり、大型バスでの来店にも対応可能です。近年の道路整備により、喜多方市街地まで30分、会津若松まで40分とアクセスも向上しています。
関口さんは「せっかくの建物を空き家にしてしまうのは忍びない。蕎麦屋にこだわらず、この地域の活性化に役立ててくれる方に託したい」と話しています。
宮古地区の豊かな自然と水、そして30年以上愛され続けた「かわまえ」の歴史。この地で新たな挑戦を始めたい方からのご連絡をお待ちしています。