岡山県内最高峰 後山の冷涼な気候と清流をいかした麺作り
岡山県と兵庫県との県境に位置する後山(うしろやま)は、氷ノ山・後山・那岐山(ひょうのせん・うしろやま・なぎさん)国定公園に属する岡山県の最高峰(1,344m)。奈良時代に行場が開かれ、現在でも女人禁制の修験場が残る霊山です。
その凛とした空気の中、深夜0時過ぎに、とちやま製麺工場の麺づくりは、はじまります。
オーナーの杤山吉一(とちやまよしかず)さんは、この山の上の製麺工場をお父さんから引き継ぎました。杤山さんのお父さんは、兼業農家でしたが、気温が低く乾燥した後山の特有の気候が、揖保乃糸(いぼのいと)で有名な千種川の気候に似ていることから、まちおこしにと、昭和59年に製麺工場を開業、素麺づくりをはじめました。工場はお父さんが自身で建てたものです。
当時、杤山さんは神戸でフランス料理のシェフをしていましたが帰郷。まもなく製麺工場を引き継ぎました。
それ以来、この深夜からの作業を続けています。
昔ながらの手延製法
とちやま製麺工場の麺作りは、麺を二つの棒に伸ばしながらかけ直す、昔ながらの手延製法。その日の気温や湿度に合わせて、こね加減と塩加減を調整したり、麺の切れ端を無駄にしないようにするなどの努力も怠りません。
深夜の生地づくりにはじまり、午後3時過ぎまで、奥さんと4人のパートタイマーで製造します。昔ながらの製法ですが、少人数で製造するため、機械設備には1億5000万円以上を投資し、最新のものを導入しています。
「粉から麺にするまでのすべての工程を手を抜かずにやることが大事です。とくに朝仕事は大切。時間はかかるけれど、ものづくりは人より努力する必要があります。手間隙かけていい麺をつくればしっかり売れるんです」と杤山さんはいいます。
現在は、7割程度がメーカーからの受注生産、3割がオリジナル製品の製造販売を行っています。オリジナル製品の「手延べもち麦うどん」は、美作市の推奨作物である「もち麦」をつかったつるつるもちもちのうどんで、市のふるさと納税の返礼品にもなっています。
病気を患い、後継者を意識
そんな「しっかり売れている」事業を譲ろうと考えたのは、数年前に大病を患ったから。娘さんが二人いますが、親族への承継ではなく、後山の自然豊かな環境ととちやま製麺工場の麺づくりに魅力を感じてくれるひとに、事業を譲ろうと考えました。
譲渡費用や大きな設備投資なく、最新の設備や経営基盤を引き継げるのは、経済的にとても大きなメリットです。しかし、それに甘えることなく、ものづくりに対して意欲をもち、この山の上の製麺工場を末永く守ってくれる方からのご応募をお待ちしています。