新見のロードサイドで大繁盛。万人に愛される味を目指すオモウマい中華「栄華楼」 | ニホン継業バンク
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2023.03.17

新見のロードサイドで大繁盛。万人に愛される味を目指すオモウマい中華「栄華楼」

〈 この連載は… 〉

岡山県西部を流れる高梁川流域の10市町には、ここにしかない味や技術、長年愛されてきたお店がたくさんあります。しかし、それらは、後継者不在を理由に少しずつ姿を消してしまうかもしれません。この連載では、市民のみなさんから「絶対に残したい」と応援の声が寄せられた事業を営む店主に、仕事に対するこだわりや思いを伺います。

取材・文:中原あゆ子 写真:bless泉奉和 編集:中鶴果林(ココホレジャパン

国道とJRのクロスポイント

岡山県南と山陰を結ぶ国道180号。高梁川沿いを北に向かって車で走ると、JR石蟹駅を目前にした大きなカーブ地点に、赤い屋根の店がある。ここが今回訪問した中国料理店「栄華楼」だ。開店の11時前には広い駐車場に車が次々と入り、店の前に行列ができる、知る人ぞ知る人気店でもある。

JR石蟹駅まで600m。伯備線と交差するロードサイドの広い土地に店を構える

営むのは、髙田利宏さんと妻の初江さん夫妻。開店するとどっと客が店内になだれ込み、初江さんが忙しくオーダーを取る。そして厨房に注文を大声で伝えるやいなや、大きなおたまと鉄鍋を手に、縦横無尽に調理場を駆け回る利宏さん。そうこうしている間に料理が次々と皿に盛られ、カウンターを滑るように並べられていく。

火が回った鉄鍋に材料を投入。力強く鍋を振る

味とボリュームで勝負

初めて訪れた客が圧倒されるのは、運ばれてくる料理のボリュームだ。山盛りの唐揚げ、器から溢れんばかりの野菜炒めやラーメン、ぶ厚い塊肉がゴロゴロ入った酢豚。「うわ~」という驚嘆の声があちこちから聞こえてくる。そんな迫力満点のメニューをすべて利宏さんが一人で作っている。

もうもうと湯気が上がる鍋から、あつあつの料理を器に盛る利宏さん

寒い冬も暑い夏も、早朝から仕込みを始める。「今は4時半に起きて5時に厨房に入ります。宴会が多かった頃は4時には厨房にいましたがね。」それぐらい早くから始めないと間に合わないのだそうだ。それも手づくりにこだわるゆえのこと。

定食は全部で8種類

メニューは約20種類の一品料理と、8種類ある定食メニューが人気。メインにエビフライやアジフライなどの揚げ物とライスが付いた「日替わり定食」の注文が特に多く、揚げ物のない「ミニ定食」や「鶏の唐揚げ定食」同列の人気だとか。12時を回るとテーブルだけで50席以上ある店内はあっという間に満席に。ひっきりなしに料理が運ばれ、また片づけられていくが、食べる人たちの顔はゆったりと幸せに満ちているように見える。

メインのおかずや揚げ物、ごはんとスープ付きの「日替わり定食」880円

創業は1980年。バブル期前夜の80年代に入ると、ドライブ客が増え始めた。映画「私をスキーに連れてって」が大ヒットした80年代後半のスキーブーム時にはスキーヤーが続々と押しかけて、30~40分待ちはざらだった。「ちょうど米子道ができた頃でスキーヤーが行き交う途中にね、寄ってくださるわけです。大山に行くにはちょうどいい場所でしょ。その頃はコックを2人雇っても手が回らんぐらい忙しかった」。客層は変わったものの、人気は今でも健在だ。

中国料理一筋50年

料理を志した利宏さんは、大阪の天神橋六丁目、通称「天六」にあった日本調理師学校で料理の基礎を学んだ。中国料理を専攻したのは、まだ入学する前に目上の知人から「専門が決まっていないなら、これからは中華がいいんじゃないか」とアドバイスされたことがきっかけだそう。その言葉に素直に従い、専攻は中国料理を選び、卒業後は四川飯店の流れを汲む中国料理の名店に就職。6年間修業を重ねた。

勤め先の社長は、四川飯店の料理長を務めたこともある人物で、高松や金沢など全国各地にある系列店を手広く経営していた。ホテルやデパート内にある高級店を転々とした利宏さんは、四川料理を広めるべく熱心に働いた。「社長はとてもサービス精神が旺盛な人で、宴会で品数が足りないとみれば一品増やしたり、飲み物を出したり。そのためホテル内なのに行列ができるほど人気でしたよ」。その恩師から、サービスの真髄を学んだ。そして料理の技法については、中国人の料理長から学んだ。

四川料理の名店で修業し、精緻な包丁技を駆使した前菜も作れる技の持ち主

誰にでも親しまれる味を目指す

6年の修行後26歳で開店して44年。利宏さんは、「味のこだわりは特にない」とさらりと受け流すが、本格的な中国料理を学んできた腕が確かなことは、客が一番よく知っている。「このあたりで喜んでもらえるには、幼稚園や小学生の子どもでも食べられる味でないとね。それと安くて、ボリュームがあって、おいしいこと。それが結局一番強いんよ」と長年の経験から断言する。「高くておいしいのは当たり前。でもボリュームがあって、安くておいしいっていうのは、ありそうでないからね」飄々とした語り口だが、利宏さんの確固たるポリシーが垣間見えた。

気さくな夫妻の人柄に惹かれて訪れる常連客も多いと思われる。「妻がお客さんに声をかけたり、子どもさんが来たらジュース出したりあれやこれやとサービスしすぎるんですよ」と笑う。そもそも破格のボリュームの料理自体が相当のサービスなのだから、夫妻そろってサービス精神旺盛なのだろう。

サービスの良さを信条に

かつては80人前後の宴会もひとりで切り盛りしてきたというが、近年はコロナ禍の影響で車の通行量が減少し、宴会の数も減ったそうだ。それでも、昼時には満席になる人気を保っているのは、こうした長年変わらぬサービスの良さが評判を呼び、かつてとは違う層の客が増えたことも大きい。

「伯備線の特急やくもによく乗る方が、『いつも駐車場が満車になっているから気になってね。いつか車で行ってみようと思って来てみたら、やっぱり評判通りのおいしさでした』と言ってくれましてね」とうれしそうに話す利宏さん。こうしたエピソードも、人気のほどを物語っている。

熱い調理場で重い鍋を操る利宏さんも70歳を超えて、「さすがに足腰が痛くてねえ」と腰をさする。初江さんやホール担当のスタッフとともに閉店まで立ち働き、夜遅く家に帰るとくたくたになって、「ごはんを食べながら突っ伏して寝てしまうんですよ」と初江さんは怒りながらもにこにこ笑う。夫妻のやり取りはまるで漫才のよう。「まあそれでもね、おいしいと喜んでくれるお客さんがいる限り、やれるところまで頑張っていきたいね」と語ってくれた。


絶対に残したい!倉敷・高梁川流域のお店 : サービス精神旺盛な夫婦が営む町中華

※本記事は後継者を募集するものではありませんので、直接事業者様にお問い合わせされることはお控え下さい。