大正10年創業。伝統製法で作る味噌のオーダーメイドが評判の「秋山糀店」 | ニホン継業バンク
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2023.01.24

大正10年創業。伝統製法で作る味噌のオーダーメイドが評判の「秋山糀店」

〈 この連載は… 〉

岡山県西部を流れる高梁川流域の10市町には、ここにしかない味や技術、長年愛されてきたお店がたくさんあります。しかし、それらは、後継者不在を理由に少しずつ姿を消してしまうかもしれません。この連載では、市民のみなさんから「絶対に残したい」と応援の声が寄せられた事業を営む店主に、仕事に対するこだわりや思いを伺います。

取材・文:中原あゆ子 写真:bless泉奉和 編集:中鶴果林(ココホレジャパン

二千年の昔から吉備国の中心地として栄え、豪族たちの古墳が多数点在する総社市。その地名の由来ともいわれる備中國総社宮の門前町には江戸時代から商人や産物が集まり、商店街が形作られていった。現在はカフェや雑貨の新店も増えつつあるその通りに「秋山糀店」はある。

旧総社商店街通りに建つ、のれんと格子戸の和の佇まいが特徴の「秋山糀店」の店舗

糀職人の曾祖父が創業

創業は1921年(大正10年)。「当時この通りには糀屋が3軒あったらしく、その1軒で修業したひいじいちゃんが始めたんです」と話すのは、4代目の秋山一将(かずまさ)さん。創業100年を迎えた2021年に事業を受け継ぎ、父・公吉(きみよし)さんとの二馬力で糀と味噌づくりに励む。母や祖母も現役で、製造や販売を支えている。

妹と姉がいる三兄弟の真ん中で、文系の大学に進んでスポーツに打ち込んでいた一将さん。「父から帰ってこいと言われたわけではないですが、糀屋を継ぐなら自分かなあと何となく思ってはいました。まだリアルではなかったですが…。でも知人からうちの味噌がおいしいと評判を聞くと誇らしくはありましたね」。

「学生の頃はクルマ関係の仕事がしたかった」という一将さんもすっかり糀職人の顔に

それでも就職を考える段になるとその思いは強くなり、30歳まで経験を積んで実家に戻ろうと決めて、大手味噌メーカーを受験した。面接で「30歳で辞めます」と正直に告げたが無事合格。入社後は営業マンとして東京に赴任する。たまに出張で味噌問屋や工場を訪問した時には父や祖父が作業する姿と重なり、家業に思いを馳せることもあったという。そして8年後、決心した通り、30歳になった年に一将さんは会社を後にし、総社の実家に戻った。

味噌の委託加工が評判

曾祖父が創業した当初は、手作りの糀の販売が中心だったが、祖父に代替わりした戦後から、客が持ち込んだ米で糀の委託加工を始めた。その流れで、今度は材料を預かって味噌の委託加工もするようになった。当時は自家製の味噌や醤油を作る家庭も多かったものの、材料を持って行けば味噌づくりを引き受けてくれるというサービスは、おいしいうえ手間も省けると、特に忙しい主婦に好評で、一時は委託加工だけで売り上げの半分を占めるほどだった。

昭和40年代頃になると、味噌がどこでも手に入るようになったこともあり、委託加工が伸び悩む。そこで3代目の公吉さんは、オリジナル商品の開発に乗り出した。「今までは、お客さんの注文に応じていろいろな味噌を作っていましたが、昔ながらの伝統製法を守りながら、個性ある味噌を作りたいという思いがあったようです」。そこで材料や工程を見直し、秋山糀店ならではの味噌づくりやブランド化に力を注いだ。

糀香る無添加の甘口味噌

味噌の材料は、米と大豆と塩のみと、いたってシンプル。糀の仕上がりも米の質によって変わる。そこで、岡山県産米100%と大豆は国産を使用。水は、高梁川の伏流水を井戸から汲み上げる。味噌の味を引き出す塩は、普通塩はもとより、ミネラルが多く入った天日塩も使い、一般的な味噌よりも控えめに配合する。そして自家製の糀を大豆の1.5倍多く合わせることで、甘く香りの良い味噌に仕上がるのだそう。

糀の出来を決める米はできるだけ岡山県産の上米を用い、ふっくらと蒸し上げる

一方、仕込みは機械に頼らず昔ながらの伝統製法を守っている。「味噌づくりに大事なのは、温度管理です。仕込みが始まったらかかりっきりで糀の面倒を見ます。やはり手間をかけて仕込んだ味噌はおいしいですからね」と言葉に力がこもる。

生きた糀は温度管理が大切。室から出すまでに、塊になった米をほぐす「手入れ」を4回は行う

味噌は糀づくりが命

糀づくりの工程では蒸し米を「もろぶた」一枚一枚に広げて何度も手入れをし、発酵の状態をチェック。また、大豆はていねいにアクを取り除きながら大釜で柔らかく煮るなど「おいしく個性ある味」を生み出すために、ひとつひとつの工程に手間ひまをかける。完成した味噌は樽からそのまま袋詰めするため、麹の風味が豊かなのも特徴だ。

2カ月間熟成した味噌。最初は色が薄いが熟成が進むと濃色に変化する

こうして生まれたオリジナルの看板商品が、昔ながらの手造りでつくる保存料無添加の「備中神楽みそ」や、備前焼を使用して仕込んだ「糀みそ」。また、総社名産の赤米と自家製糀を使った甘酒「かみよ」、寺社の振る舞い用に重宝される生の甘酒「生米糀甘酒」も親しまれている。

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左から)甘口で香りの良い「備中神楽味噌」(900g702円)、定番人気の「甘酒」486円、「備前焼仕込み 糀みそ」(1kg864円)

「オーダーメイド味噌」という提案

オリジナル商品が安定的に売り上げを伸ばす中でも、秋山糀店が大切にしてきたのは、客の要望に合わせて味噌を委託加工する、「味噌のオーダーメイド」のサービスだ。

個人が持ち込む米や大豆は量も違うし、時には塩の指定もある。味の好みも異なるため個別に仕込まなければならない。「まず味の好みを聞いて、うちの味噌の配分をベースに配合を決めるんですが、小ロットなんで、お客さん1人1人の樽にそれぞれの配分で仕込んでいくんです」。何とも手間のかかる作業だが、「マイ味噌」を作ってもらえる特別感は顧客にとって大きな魅力でもある。

現在も味噌の委託加工を続けている。味噌のために収穫したという米や大豆、黒豆を、顧客から受け取る一将さん

糀専門店が減って頼むところがなくなったと訪れる客もいるし、代々同じ配合で注文をくれる馴染み客も多い。長年地域に欠かせない店としてあり続けているのは、顧客のリクエストに細やかに応じる姿勢も理由のひとつだろう。「仕込みの時期は大変ですが、でき上がると皆さん喜んでくださるんで、この委託販売はずっと大事にしていきたいですね」。

「個性的で美味しいものを」という父の思いや受け継がれた技を守りつつも、変えていかなければいけないこともあると一将さんは悩んでいる。それは、共に支えている祖母や両親が関われなくなった時に、人手や設備投資や工程をどうするかということ。そうした先々のことも考えながら、ネット時代の販売方法や販路の拡大にも精力的に取り組んでいる。


絶対に残したい!倉敷・高梁川流域のお店 : 1921年創業の糀店

※本記事は後継者を募集するものではありませんので、直接事業者様にお問い合わせされることはお控え下さい。