文具マニアも垂涎の約1万点をラインアップする、文具専門店「尚美堂」 | ニホン継業バンク
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2023.01.13

文具マニアも垂涎の約1万点をラインアップする、文具専門店「尚美堂」

〈 この連載は… 〉

岡山県西部を流れる高梁川流域の10市町には、ここにしかない味や技術、長年愛されてきたお店がたくさんあります。しかし、それらは、後継者不在を理由に少しずつ姿を消してしまうかもしれません。この連載では、市民のみなさんから「絶対に残したい」と応援の声が寄せられた事業を営む店主に、仕事に対するこだわりや思いを伺います。

取材・文:中原あゆ子 写真:bless小野友里恵  編集:中鶴果林(ココホレジャパン

文化が息づく井原市

一般的な文具のほか、事務用品や学習教材、玩具やスポーツグッズまでずらり

岡山県の西南部に位置し、広島県と隣接する人口約3万8千人の小さな都市・井原。江戸時代より始まった綿花栽培を起源とし、繊維の一大産地として発展し「デニムの聖地」と呼ばれている。また、彫刻家・平櫛田中や漢学者、儒学者の阪谷朗廬をはじめ、多くの著名人を輩出したことでも知られている。

文化が息づく井原市の中心地で、76年の営みを続けている文具店『尚美堂』。事務所と思しきプレハブ造りの店内に入ると、ペンや鉛筆、消しゴム、ノート、色紙、金封、書道用品に画材、ファンシー雑貨といったカラフルな文具が並び、文具好きならずともテンションが上がる。

戦後の混乱期に日用品を行商

「特別数えたことはないけど1万点はあるじゃろうか?」と小首を傾げるのは、代表の野宮利亮(としあき)さん。多い時には4人の従業員もいたが、現在は妻・陽子さんとふたりだけで店を営む。

御年83歳にして、空手の鍛錬も続ける元気な店主の野宮利亮さん

終戦後の昭和21年に、利亮さんの父・野宮郁夫さんが始めた日用品販売の店が起こりだ。当初は、現在地より約5キロ南東に離れた木之子町で店を開き、そこから郡部の後月郡芳井町方面へ行商していた。当時扱っていたのは、地下足袋や合羽、ゴム紐といった生活雑貨が中心。「戦後の復興期で、いちばん物のない頃でね。奥(郡部)にも人は大勢住んどったから、日用品を持っていきゃあ、なんぼでも売れたそうな」と、利亮さんは父の話を回想する。

ショッピングセンターへの出店を機に文具専門店に

ノートやレターセット、金封といった紙製品が充実している

ファンシー商品などは、大阪の問屋街・船場(南久宝寺町)にある「なんでも屋」的な卸問屋まで出かけて仕入れていた。多い時は毎月、コロナ前までふた月に一度は通って日用品や化粧品、文具などを買い付けていたという。「『尚美堂』という屋号も、化粧品を扱い始めた頃に、先代が名付けたのかもしれません」。

昭和40~50年代になると、全国的に共同店舗が現れ始めた。その流れは地方にも波及し、井原市でも協同組合による共同店舗を作ろうという話が持ち上がった。そこで、新組合が結成され、昭和50年(1975年)に誕生したのがショッピングセンター「ポニー」だ。

5階建ての店舗は、個人店ばかりだった当時、町の人たちの注目を集めた。『尚美堂』も2階に『ポニー文具』というコーナーを開き、文房具に特化して商品を並べた。20代から父の仕事を手伝ってきた利亮さんは、「ポニー」のオープンを機に36歳で代表として正式に尚美堂を承継。これまでも、父が卸を担当し、利亮さんが店の営業を手掛けてきたので、承継後も大した困難はなかったという。

小・中学校に販路広げる

代表になって以来、利亮さんは企業や役所、学校関係へと販路を拡大。特に、市内の小・中学校全校に商品を卸すようになったのは、利亮さんの営業力や深い商品知識、人柄によるところが大きい。その時に築いた学校関係への卸部門が、今の尚美堂の礎ともなっている。一方『ポニー文具』のほうも、キャラクターのファンシー文具などが女子中・高生に人気を集め、業績は盤石だった。

書道用半紙や用品、中学校既定のバッグ、上履きなどの学校用品を長年納入してきた

ところが、平成に入り、次第に組合加盟店が退店していったことで、「ポニー」自体が立ち行かなくなり、平成9年(1998年)に閉店。野宮さんは、急きょ代わりの店舗を探さなければならなかった。幸い「ポニー」に近い現在の土地を借ることができ、プレハブの店舗を建てて平成10年に再スタートを切った。

「『ポニー』のお客さんがまた来てくれたのは良かったけど、その頃から大規模商業施設が次々できて大規模商業施設の出店はボディブローをくらいました」と苦笑する利亮さん。大型ショッピングセンターや米国資本の大型玩具店の進出で、日常的な文房具がいつでも安売りされることの影響は大きかった。また、少子化で子どもの数が半数になったことで、購買力も下がったと嘆く。

専門的な書道用品や紙製品に強み

県内西部には文具専門店が少ないため、書道や絵画教室の指導者もよく訪れるそう

それでも、書道用品や水彩画材、金封や色紙、便箋などの紙製品の品ぞろえには目をみはるものがある。大型店では扱えないような天然毛筆や高級な墨や硯など、マニアックな商品もそろえている。「ほかにもね、ボールペンの芯なんかも買いに来られますよ。うちで買ってくれたペンは全部フォローできるようパーツもみなそろえとるからね」

いかに世の中にデジタル化やDX化の波が押し寄せようとも、現金商売を貫く。「誰が引き継いでもわかるように、商品には全部値札を付けとるから」と笑う利亮さん。学校帰りの子どもたちがお金を握って買い物に来る姿もほほえましい。「お客さんが困らんように、元気なうちは続けんとなあ」。ともに店を守る妻・陽子さんにそう声を掛け、うなずき合っていた。


絶対に残したい!倉敷・高梁川流域のお店 : 1万点以上の文具を扱う文具専門店

※本記事は後継者を募集するものではありませんので、直接事業者様にお問い合わせされることはお控え下さい。