「ガンプラ」からスケールモデルまで約1万点。豪雨災害を乗り越え再開したプラモデルの聖地「エラヤ」 | ニホン継業バンク
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2022.12.28

「ガンプラ」からスケールモデルまで約1万点。豪雨災害を乗り越え再開したプラモデルの聖地「エラヤ」

〈 この連載は… 〉

岡山県西部を流れる高梁川流域の10市町には、ここにしかない味や技術、長年愛されてきたお店がたくさんあります。しかし、それらは、後継者不在を理由に少しずつ姿を消してしまうかもしれません。この連載では、市民のみなさんから「絶対に残したい」と応援の声が寄せられた事業を営む店主に、仕事に対するこだわりや思いを伺います。

取材・文:中原あゆ子 写真:bless林達也  編集:中鶴果林(ココホレジャパン

宿場町・矢掛に7代続く老舗

「ガンプラ」と聞けば、若い世代でも興味を示す人は多いであろうホビーの王道・プラモデル。子どもからディープな愛好家まで、全国のモデラ―から「プラモデルの聖地」と崇められている専門店が岡山県小田郡矢掛町にあるのをご存じだろうか。

※ガンプラ=株式会社バンダイが販売する「機動戦士ガンダム」シリーズのプラモデル

この地に「戻ってきた」という方が正しいかもしれない。というのも、全国に名を馳せた模型店『エラヤ』は、元は倉敷市真備町内に店舗を構えていたが、2018年に浸水被害を受け、取り揃えていた約10万点の商品すべてが水没。2020年9月に、本店があった矢掛町で店を再開したという経緯があるからだ。

真備時代には及ばないものの、ガンプラなどの限定モデルも多数在庫している

矢掛町といえば、江戸時代に旧山陽道の宿場町として栄えた歴史ある町。300年の時を経て、今も町並みには往時の面影が残っている。通りの中ほどには、かつて参勤交代の大名が宿泊した旧矢掛本陣石井家住宅や旧矢掛脇本陣髙草家住宅が国の重要文化財として保存されている。

乾物屋から玩具店へ

江良の地名に因んだ『エラヤ』。「家庭用品」「おもちゃ」の文字が残る建屋で再開した

その本陣・脇本陣の近くに、『エラヤ』の店舗がある。歴史は古く、宿場町だった江戸時代に商売を興し、「戦前は乾物屋を営んでいたらしい」と7代目に当たる店主の團迫敬郎(だんさこけいろう)さんは話す。戦後、両親が金物や台所用品、日用品などを扱いはじめ、昭和33年頃から着せ替え人形やフランス人形、盤ゲームといった子ども向けのおもちゃも売るようになった。

ところが昭和60年代に入ると、郡内の小学校が複式学級になるなど急速に少子化が進んだ。「子どもが減りゆく土地でおもちゃを売っても、今後成り立たなくなるだろう」と考えた團迫さんは、昭和の末期の1988年に吉備郡真備町(現・倉敷市真備町)へ出店を決めた。倉敷市内や水島地区のベッドタウンとして宅地開発が進み、ファミリー層が増えていたからだ。

時流を読み模型店に転換

「世の中に任天堂の「ファミリーコンピューター」が出現した頃でね。人気ソフトの「ドラゴンクエスト」の新バージョンの発売日なんか、子どもたちが100人ぐらい店頭に並んでねぇ。子どもが1万円、2万円を平気で握りしめて来る。そんなすごい時代でしたよ」と團迫さんは、当時のフィーバーぶりを懐かしむ。

天井まで届かんばかりにうず高く積まれたプラモデルの箱は圧巻!

店は電子ゲーム人気で大繁盛したが、1999年に倉敷市内に大規模玩具店がオープンしたことで「とても太刀打ちできない」とホビー商品中心に転向した。「趣味の世界なんでゲームみたいには売れませんでしたけど、石坂浩二さんのお陰で知名度が急に上がってね」。

65年を超えるプラモデル歴の俳優・石坂浩二さんが2016年にプライベートで店を訪れ、BS日テレオンデマンドで放映されたことで、一気にモデラ―の間で噂が広がった。「ガンプラ」の人気シリーズや限定モデル、乗り物系ではレアな旧車プラモや絶版キット、細かいパーツまであると噂が噂を呼び、全国からプラモデル好きが続々と訪れるようになる。親子連れだけでなくマニアが遠くから通う、まさに「聖地」になった。

西日本豪雨で失った1億円分の在庫と夢

商品を愛おしみながら品出しする團迫さん。どこに何があるかもすべて把握している

少子化の影響でプラモデル専門店が減りゆく中、引き継いだ在庫も質・量ともに充実し、売上は順調に推移していた。しかし2018年7月、真備町は予想もしていなかった水害に見舞われた。店は5mの高さまで浸水し、ファンにとっては「お宝」だった品々が泥水にまみれた無残な状態になった。「その時はとにかく廃棄することで精一杯でした。でも、今思えば、ミニカーや鉄道模型の本体を洗って、泥水を早く落としていれば、価値が残ったのに…」と團迫さんは今も悔やんでいるそうだ。

一時は閉業を決意し、閉店セールを開くとSNSで知ったファンが海外から集まったが、、惜しまれつつ2018年12月末でエラヤはいったん廃業した。しかしさまざまな葛藤を経て、「やっぱりもう一度店を開こう」と團迫さんは決意。2019年5月1日、矢掛町に移転しERAYAを開業した。

作る楽しみも知ってほしい

現在は、再開後新たに仕入れた商品を中心に、営業を続けている。親しまれてきた旧車や飛行機、戦車など、さまざまなメーカーや縮尺のものをそろえている。何より、團迫さんやスタッフの商品知識が深く、実車についての時代背景まで教えてもらえるので初心者にとってもありがたい。

塗装用の各種ポスターカラーが並ぶほか、筆やスプレー、ニッパ―など必要な道具もそろう

「来てくれるお客さんは50歳代以上が中心かな。子どもの頃に自動車や飛行機に憧れた世代が圧倒的ですね。今の子どもたちは、まず実車への興味がなくなっててね」と團迫さんは嘆く。プラモデルは組み立てたり自分好みに塗装したりするのも楽しみのひとつ。けれど現代の子どもたちは「作る」ことより、スマホやゲームを「操作する」ほうに興味が移っているゆえ、商品も完成品やすでに塗装してあるモデルが増えているそうだ。

欲しいモデルを告げればすぐに探してくれる團迫さん。モデルの実車についても聞けば教えてくれる

いっぽうで、コロナ禍の巣ごもり需要による新たなニーズも生まれている。よりこだわりの一台、一機を作りたいと、県外から足を運ぶ愛好家も依然としている。また、かつて買えなかったプラモデルを、改めて作ってみたいという中高年や完成品コレクターも増えていると聞く。キット自体の価格はもちろん、ニッパーなどの道具も高価になってきた今、子どもたちの遊びだったプラモデルは、ゆとりのあるシニアの趣味の世界へと対象が変わりつつあるのかもしれない。


絶対に残したい!倉敷・高梁川流域のお店 : 国内外からファンが訪れるプラモデル専門店

※本記事は後継者を募集するものではありませんので、直接事業者様にお問い合わせされることはお控え下さい。