始めた理由は“子どもが好き”、ただそれだけ
宮崎県日南市で長年子育て支援に携わり続けてきた吉田容子さん。約20年にわたり託児所を経営するなど、この地で多くの子どもたちの成長を見守ってきました。そんな吉田さんが今、これまで続けてきた子育て支援事業を引き継ぎたいと考えています。
吉田さんが自身で託児所を始めたのは、ちょうど2000年のこと。それまで日南市内の幼稚園や市の臨時保育士、障がい児支援などに携わってきた経験を活かして立ち上げたのが、個人経営の託児所「チャイルドハウス・さくらんぼ」です。吉田さんが子どもに関わる職の道に進んだ理由はいたってシンプル。「子どもが好きだったから」吉田さんはそう話します。
日南市役所にほど近いビルの2階で始めたその託児所は、次第にお母さんたちの間で評判になっていきました。託児スペースを1階・2階の2フロアに拡大したあとも子どもたちは増え、借りていたビルでは再び手狭になり、新たに託児所用の建物を建てたというほど。最終的には従業員5名に常時20名の子どもたちが通い、そのほかに一時預かりも受け入れるなど、事業としても順調でした。
「託児所を20年くらいやってると、昔の教え子のお子さんも見てほしいと言われたり、まちを歩いていると声をかけてもらったりします。子どもだけじゃなくて、お母さんとのお付き合いもあるし、子どもさんが大きくなって『先生、こんなに成長したよ』と言ってきてくれるのもまた楽しみなんですよね」と、笑顔で子どもに関わる仕事の魅力を語る吉田さん。
廃業した家業を復活し、新事業をスタート
2019年には「少しでもお母さんたちの助けになれば」と、託児所の玄関先で知り合いの農家さんの作った野菜を販売。お母さんたちから「おいしい」と人気が出たことをきっかけに、吉田さんの両親の代まで営んでいた家業の日用雑貨店「崎村商店」を復活させ、野菜やお惣菜、お弁当の販売など、託児所と並行して新たな事業をスタートさせました。
そのときにスタートした事業のひとつが「古民家キッズカフェ・さくらんぼ」です。かつて「崎村商店」の店舗となっていた吉田さんの実家をリフォームし、1日2,000円で広い和室をお母さんと子どもが自由に使えるカフェにしました。コンセプトは「家の延長で子育てができる、田舎の広いおうち」。子どももお母さんも、のびのびと広い場所で自由に過ごしてほしいという吉田さんの思いから始まったキッズカフェです。
その後1年ほどは、託児所と崎村商店を並行して続けていましたが、託児所「チャイルドハウス・さくらんぼ」は、開業から20年の節目を迎えた2020年に廃業。最後まで経営は順調でしたが、母親の介護のこともあり、事業の規模を縮小するため託児所の廃業を決めたといいます。
“子育て”に関わることなら、キッズカフェでなくてもいい
託児所の廃業後は、崎村商店として手作りのお惣菜販売やお弁当の戸別配達、そして「古民家キッズカフェ・さくらんぼ」を運営してきました。崎村商店も、託児所時代に関わりのあったお母さんたちの口コミで来店する人が多いのだそうです。
「崎村商店も、私がやっているという口コミで来られる方が多いですね。今でも、保育園で手作りのお弁当を持っていく日には、仕事が忙しくてなかなか手作りできないお母さんから『おかずの配達をお願いします』という依頼があります。お惣菜やお弁当の販売を始めたのも『子どもたちに手作りのものを食べさせたい』という思いがあったからでした。キッズカフェでも手作りのお昼ごはんを提供しています」
現在はお惣菜とお弁当販売の事業が忙しくなり、並行しての運営が体力的にも厳しくなったため、「古民家キッズカフェ・さくらんぼ」は休業状態になっているといいます。そこで、この場所を活用して子育て支援事業を続けてくれる方を募集することに決めました。理想は、吉田さんのように“子どもが好きな人”だといいます。
これまでキッズカフェを運営してきましたが、「必ずしもキッズカフェである必要はない」と吉田さんは考えています。子どもの遊び場だけではなく、お母さん方の学びの場にしたり、畑で子どもたちのために無農薬の野菜を育ててもいい。アイデア次第でいろいろなことができるはずのこの場所を、子育てのために活用してほしいーーそんな思いで吉田さんは「古民家キッズカフェ・さくらんぼ」を手放し、新たなアイデアを持つ人へこの場所を託したいと考えています。もちろん、希望があれば崎村商店からお弁当を仕入れることも可能です。
周辺には同じような子育て支援施設はありません。美しい海と太陽の光がいっぱいに降り注ぐ、自然豊かな日南の環境で、お母さんや子どもたちをサポートしたい方をお待ちしています。