岐阜県郡上市に、ギネス世界記録に認定された郷土玩具やおもちゃを展示する博物館「日本土鈴館」がありました。ギネス世界記録に認定されたのは、粘土を焼成して作られた土製の鈴「土鈴(どれい)」の収集数が16,040点(認定当時)と世界一だったからです。さらに驚くべきなのは、土鈴をはじめ郷土玩具を愛するひとりの男性によって建てられた私設の博物館であることです。
開館から30年以上館長をつとめた遠山一男さんは現在93歳。高齢を理由に2021年12月に閉館しましたが、「収蔵品等を大切に取扱い、事業を継続してもらえる法人に引き継いでほしい」と承継先を募集します。

おもちゃに魅了された幼少時代
名古屋出身の遠山さんが岐阜県の奥美濃白鳥に移り住んだのは、小学5年生の夏。約80年前の1940年初期のおもちゃといえば、木や竹、紙、ワラなどでできた素朴なものばかりでした。
「けっして高級でなく、 細工も単純でした。それでも私にとってはどれもが宝物で、日の暮れるまで遊んだ日々が懐かしく思い出されます。あの頃のおもちゃには、作った人の手の温もりがありました。大人になって玩具店を始めたのも、また郷土玩具や土鈴の収集に熱中するようになったのも、そんな少年時代の楽しかった思い出が心の底にあったからだと思います」
と、おもちゃに夢中になったきっかけについて遠山さんは話します。

「おもちゃの心」を忘れることなく、やすらぎの場として楽しんでいただけるようにと「日本土鈴館」をつくったのは1986年。遠山さんが還暦記念を迎えた60歳の頃でした。
旅先で雑貨を仕入れることがライフワーク
博物館をつくる前から、国内外に買い付けに行って仕入れた雑貨を販売する雑貨店を営んでいた遠山さん。各地の雑貨店に卸販売する傍ら、自分の好きな商品を集めていくうちに商品数が多くなり、今では10万点以上に。
70歳を超えてからも、中国や東南アジアまで足を延ばし、民芸品や民族衣装などを購入し、旅をしながら仕事をしてきました。館内は「土鈴館」「ぬくもり通り」「やすらぎ館」「アジア民芸館」に分かれ、日本や世界各地ごとのコーナーがあるので、見ているだけで全国を旅しているような気分になります。

「土鈴の風土や時代を反映した多彩さや音色に魅せられていったんです。土鈴愛好会というのもあり、私のように土鈴に魅せられた仲間たちもいらっしゃいます。今後はひとりの愛好家として、後輩たちの土鈴や郷土玩具の収集をお手伝いさせていただきたいと考えています」
と遠山さん。承継者が希望すれば、遠山さんが名誉館長に就任することも可能です。
郡上市内の小学校の遠足コースとしても立ち寄る場所でもあり、年間2万人以上の来館者数があった約20年前の年商は約1,000万円でした。しかし、原点に立ち帰り、興味のある方に気楽に楽しんでいただけるようにと、2017年からは500円だった入館料を無料にしたため、直近の売上は土産品の販売のみという状況でした。
事業化するためにはマーケティングやPRが必要
日本土鈴館のある郡上市白鳥町は、北にひるがの高原というスキー場群があり、南には郡上八幡の城下町があります。さらに2025年には福井〜白鳥間で「中部縦貫自動車道」の開通が予定され、観光客増加も期待できます。国道に面している立地で、観光バスが駐車できるスペースも十分にあります。

開館から約40年間が経過していますが、施設外観はきれいで改装の必要はありません。また、展示品は基本的にガラスケースに収納されているため、メンテナンスは比較的容易です。一方で、和式トイレの改修が必要になります。
これまで遠山さんの趣味の一環という位置付けで営業してきたため、PRは十分にできていませんでした。バス観光客も見込めるため、入館料を設定し、しっかりとマーケティングやPRをすることで事業として成立する可能性があります。
「まずは数年間賃貸で営業していただき、お互いの合意があれば収蔵品を含む建物と土地を譲渡したいと考えています。日本土鈴館という名前は変えていただいても構いません。私がこれまで集めてきた大切なコレクションを維持管理していただける事業者さまに引き継いでいただきたいです」
希望があれば、遠山さんに収蔵品について教えてもらいながら、営業面の引き継ぎも検討できるといいます。数十年にわたって旅をしながら全国の景色を見てきた遠山さん。日本土鈴館を承継し、郡上の地から土鈴や郷土玩具の魅力発信をしていただける事業者様からのご応募をお待ちしています。
